白空の愛
はらりはらりと冷たく降り積もるのは、もう半日ほど続いていた。
今、無感情に投げ出していた足を引き上げるように動かす。そうすると、白く染めていたものがばさばさと落ち、足跡には濡れた緑がちらりと覗いている。全くの無感情であった。白空からは青色を隠した冷気が心を貫くがごとく吹きつける。私は急に回想の深い穴に引きずり込まれた。あたたかい声が、穴の奥で氷の私を溶かすように苦しく響いていた。
コスモスのような少女だった。少し赤い髪も、黒い目も、そして何よりあたたかで弾んだ声が愛おしかった。彼女とは一切の濁りのない友である。愛よりもずっと、友情の方が何倍もあったはずなのだ。しかしいつしかわが心の一点の光となり、ゆらめき恋を抱く存在になっていた。その、彼女のことである。
幼い頃から体格も並んでいて、もしかすれば私の方が小さかったのかもしれない。彼女はいつも私を大きな子から守り、まるで大人のように笑いかけてきたのだ。今となっては優しく大切な思い出である。数年も経ち、いつの間にからしくなった私を見上げながら、少し悔しそうに笑った顔は忘れたことはない。それでも彼女は私を守ろうとしたのだ。もう大丈夫だと前に出た時の心配そうな顔も、本当に大丈夫で振り向いた時の安心したような顔も、やはり忘れたことはなかった。声に出さなければ形になるはずはないなど、とうの昔に解っていたはずである。されどこの形に似合わず臆病な心は彼女から逃げ続けていた。そうして砕けたと、そういうことだった。早とちりだった可能性は確かに無いとはいえないのだが、もうそう余裕ぶっていられる心はなかった。遠くに行ってしまった気分である。
回想の穴から這い出て滲んだ光景は、私には眩しかった。引き上げたはずの足もまた投げ出していた。しかしながら、一つだけ眼前に変化があった。愛おしく遠かった彼女が私の足跡を踏んで、あの安心したような顔で笑っていたのだ。目の前はさらに滲んで、よく見えなくなってしまった。
彼女は私の隣に座り、様子を伺うようにしながらぽつりぽつりと語り始める。聞けば、穴で見たあのことについてだった。彼女は一学年上の人間から交際を申し込まれたのだという。それも校内では人気のある人間で、やはり遠くへ、などとまた穴に引きずり込まれかけるが、私の穴は彼女の次の言葉で埋められてしまった。
「断ったよ、だって……」
いつの間にか白空の涙は止んでいた。