テーマ×テーマ小説 (主人公:某ヒーロー漫画並みの勇者orミライ勇者×現場:グラウンド)
こんにちは、葵枝燕です。
この作品は、我が姉の唐突な思いつきから書き始めた作品の第三弾です。
本当は、九月中に投稿するつもりだったのですが、書き上げられなかったので……ようやく投稿できます。
詳しくは、裏話も交えつつ、後書きにて語りたいと思います。
それでは、どうぞご覧ください!
ジリリリリ、ジリリリリ……。けたたましい警報音が、町中に流れている。この町に来て、今日でちょうど二週間になるが、この音に慣れることはなかった。
「おい」
オレは、横でいびきをかいている男にそう言葉を投げる。しかし、相手に起きる気配はない。どうやら今回もオレに任せて、自分は寝ることに決めているようだ。思わずため息がこぼれる。
「こんなとこで寝て、巻き込まれても知らんからな」
「そうなる前に」
他人を小馬鹿にするような声音を、風が運んでくる。踵を返そうとしていたオレは、その声を聞いて動きを止めた。視線を、男に向ける。
「逃げるから、安心しなよ」
目を閉じたまま、寝転がったまま、それでも口だけを動かして男は言う。その動作は、とてもアンバランスなものに見えた。
「そうか」
「あれれ? もしかして、コトリちゃんてば、心配してくれてんの?」
カチンと、自分の中で何かが鳴るのを聞いた気がした。
「次、“コトリ”とか言ったら」
重々しい低音は、まるで自分自身の声ではないかのようだった。そして、そんな声を出している自分が、ひどく滑稽なものに思えた。似合わない、と思った。それでも、言葉を続けた。
「お前のその煩い口、縫い付けてやるからな」
「わーお。コトリちゃんなら、ほんとにやりかねないね。……あ」
「縫い付けるか、今すぐに」
ジリリリリ、ジリリリリ……相変わらずの警報音に、眉間に皺が寄る。あまりにも間が悪い。
「戻ったら、憶えておくんだな」
「ごめん。忘れるから、忘れてよ」
こちらの神経をただただ逆撫でするだけのその声は、おそらく本当に忘れるつもりに違いない。苛立ちはしたが、オレとしてもこいつの口を縫い付けるなど、本当はごめんなのだ。
「行ってくる」
「がんばれー」
いつものように、軽い調子で送り出される。そこには、オレを心配するような色などない。でも、オレにはそれでよかったのだ。
そこはどうやら、学校らしかった。“らしい”と曖昧な言い方になったのは、あまりにも立派な門構えで、驚くほど広大な敷地面積だったからだ。かなり大きな規模の学校らしく、門も、そこから見えるいくつかの校舎も、煉瓦や石造りの立派なものだった。学校に行った経験のないオレには、無駄に広いだけの場所にしか思えなかった。
そしてそこには、何十人もの屈強な男達が詰めかけていた。おそらく、オレとは同業者なのだろう。その誰もが、棍棒や刀剣や弓や銃などの武器を握っている。そんなヤツらの横を素通りし、目的の場所に向かおうとした。
「ちょっと、坊や!」
そんな言葉と共に、オレの右肩を摑む手。首だけを動かして相手を見つつ、
「何か?」
と、オレは問うた。そこにいたのは、太ったおばさん――ああ、いや……ふくよかな女性だった。心配そうにオレを見る目とぶつかる。
「“何か?”、じゃないよ。あんた、見るからに子どもじゃないか。こんなとこに来ちゃ駄目だ。早くお逃げ」
「心配してくれてるのは嬉しいですが、オレなら大丈夫ですよ」
普段なら絶対見せない、いわゆる営業スマイルを浮かべてみせる。こんな顔、絶対あの男には見せたくないし、見られたくないと思う。
「手、離してくれませんか? あと、できればここにいる人達全員、退避させてもらえると助かるんですけど」
やや口早にそう言う。オレを摑むその手が、オレを心配そうに見るその目が、とても煩わしいものに思えたからだ。放っておいてほしかった。あの男の、他人を小馬鹿にしたあの口振りの方が、いくらかマシなものに思えてくるほどだった。
「何言ってるんだい。退避するべきはあんたの方だろう? 悪いことは言わないから、早くここからお逃げ」
舌打ちしそうになるのを何とか止める。苛立ちが募って、あふれ出してきそうだった。それを抑えようと俯く。
なぜ、わかってくれないのだろうな。
「早くここから離れた方が、身の為だと思うけどな」
そんな言葉が、口をついて出る。そして、覚悟を決めた。
「すみません」
短く言って、女性の手を振り払う。そして、駆け出す。背後から女性の叫び声が聞こえたけれど、振り向いてなどいられなかった。
そこは、グラウンドらしかった。しかし今、ここにその面影はほぼ皆無だった。サッカーゴールは地面に半分ほど埋まっているし、掲揚台はひしゃげているし、地面にはいくつもの穴が開いている。
「ひどいな……」
思わず呟く。そして、正面にいるそれを見た。
“それ”は、巨大な怪物だった。例えるなら、カメとカエルとを足して割ったような見た目の、巨大かつ醜い怪物だった。
「お前に非はないのだろうが……」
怪物に向かって歩を進めながら呟く。怪物の目が、オレを見た。その目に、敵意と警戒心が強く表れた。
ここに来るまでに、何者かがこの怪物を呼び出したことを聞いた。つまり、呼び出したはいいが従えられなかった、ということだろう。この学校はどうやら、そういう連中の集まる学校らしい。
「ギャウオォォォ!!」
地の底からわき上がるような、聞いているこちらを怯ませるような、そんな音が怪物の口からあふれ出す。それは、声などとはとても呼べるものではなかった。そんな音を吐き出しながら、怪物がその巨体に似合わない素早さでやって来る。ほんの少しの恐怖が、オレの体を貫く。それでも、それよりも、高揚しているオレがいた。
指の関節をポキポキと鳴らしながら、
「ごめんな」
と、オレは呟いた。
「お帰りぃ、コトリちゃん。無事に倒せたみたいだね?」
つい三時間前にいた場所に戻ってくると、あの男はまだそこにいた。どこか人を苛々させる、いつもの口調でオレを迎える。先ほどと同じ、寝転がったままだ。
「最後まで出てこなかったな。あと、その呼び方やめろ」
オレが横に腰掛けると、男は上半身を起こした。そうしてみると、自分と男の身長差を突き付けられる。自分の小柄な体躯を、少しだけ恨めしく思った。同時に、無駄に身長の高いだけのこの男が羨ましくもなる。
「ふふふ。いいじゃない、“コトリ”。かわいらしくて、きみにピッタリだろ?」
「じゃあお前は、“巨人”って言われたいのか?」
一矢報いるつもりだったが、男のどこか余裕そうな笑みに、この発言が全く意味を成していないことに気付いた。
「コトリちゃんがよければ、どうぞ? かえって惨めになるだけだと思うけどね?」
「……チッ」
背の低いことを気にしていないと言えば、それはきっと嘘になる。隣にこの男がいるそれだけのことでさえ、自分の小ささには気付かされるのだ。そう、それこそ、見た目だけで“子ども扱い”されてしまうほどに。
「でもオレは、小さいコトリちゃんが好きだよ-。からかいがいがあるしねぇ」
「やっぱり縫い付けるか、口」
自分でできる限り、最低音で言ってみる。男が両手を挙げて、降参のポーズをとった。
「わぁお。そりゃ勘弁。縫い付けられちゃ、コトリちゃんへの愛を囁けないでしょう?」
「“愛”……ねえ? 戯れ言、の間違いじゃないか?」
「言うねぇ。でも、“愛”も案外あるかもよ?」
「やめろ。気色悪い」
日が落ちる。橙色が町を染めていく。風が吹いた。それだけのことで、今のこの町に平穏が訪れていることを、オレは感じていた。
「宿に戻ろっか、コトリちゃん」
いつの間にか立ち上がった男が、そう声をかけてきた。オレも立ち上がり、尻に付いた葉を払いながら、
「そうだな」
と、応じる。
「あ、今日はごちそうがいいなぁ」
「は? ごちそう? どの口が言うのやら。大体、そんな金はないぞ」
男より一歩前を、後ろを振り向くこともなく、オレは歩く。男のことは煩わしいが、それでも、隣にこの男がいることに、密かに安心しているオレがいた。
夜が闇を連れてくる。人々が、騒がしく動き始める気配がする。願うなら、この普通の平穏がずっと続けばいいと思ったのだった。
『テーマ×テーマ小説 (主人公:某ヒーロー漫画並みの勇者orミライ勇者×現場:グラウンド)』のご高覧、ありがとうございます。
この小説は、前書きでも述べたとおり、私の姉の唐突な思いつきで書くことになった作品です。その思いつきというのが、「主人公と現場のテーマを五つずつ出し合って、それぞれから一つずつ引いて、それで何か書こうぜ!」と、いうものです。
そして、第三回となる今回のテーマが「某ヒーロー漫画並みの勇者orミライ勇者×グラウンド」でした。主人公テーマは姉の考案で、現場テーマも姉の考案です。
ちなみに、姉の案には“某ヒーロー漫画”ではなく、具体的な作品名が書かれていたのですが、掲載するにあたり伏せさせていただきました。さらにいえば、私はその漫画を読んだこともなければ、アニメをちゃんと見たこともありませんので、完全に想像というか妄想です。
さてと、登場人物について語ることにいたしましょう。結局二人とも名前を出しそびれてしまったのですが、ちゃんと名前があるんですよ。でも、それをメモしたWordデータを撮影した写真データを消しちゃったので、うろ覚えなんですけど……がんばります。
まずは、主人公のコトリちゃんから。本名は、二ノ崎穂杜利です。身長百五十センチメートルくらいの標準よりはやや痩せ形という、小柄な体躯にもかかわらず、一撃で相手を倒せるという能力の持ち主――という設定です。最初は、“穂都利”で“ほとり”だったんですけど、直前で今の漢字に落ち着きました。何か、「この子の名前は“ほとり”だ!」って思っちゃったんですよね。
次に、作中で名前が一切出ず、終始“男”やら“あの男”やら表記されていた彼を。本名は、倉益颯真です。身長百九十センチメートル超えの痩せ形で、コトリの相棒(?)――という設定です。他人を馬鹿にしたような口調で、事あるごとに他人の神経を逆撫でしてるような、そんなヤツですね。彼がコトリを“コトリ”と呼ぶのは、本名の“ほとり”をもじっているのと、自分と比べてだいぶ小さいコトリをからかっているのと、二つの理由からです。戦闘系のお仕事はコトリにお任せ――といえば聞こえはいいですが、ただ丸投げしてるだけです。何だか、暗いのか、爽やかなのか、よくわからない名前だなぁ――と、今になって思います。……何かこう書くと、ろくでもない男みたいですね。褒められる要素がないからかな。
そんなこんなで、今回もどうにか、無事に一つの話を作り上げることができました。〆切過ぎちゃったけど。あと、いまいち舞台背景がなぁ……元々学園モノでいこうとしてたし、それを路線変更したから、色々とグチャグチャですよ。とりあえず、舞台は未来の日本ってことにしときますかね。
実は、第四回のテーマが、まだ決まっていません! 今まで、決まってから投稿していたので、違う意味で不安ですね……。
さてと。今回はこのへんで。
この度は、拙作のご高覧、誠にありがとうございました!