シャドウくん(5)
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「えー、以上が今回の怪人41号に関するデータと被害報告となります」
大学の講義室のような会議室で、紘子さんが先生のようにプロジェクターを使った説明を締めくくる。軽いパーマをかけたかのようなボサボサの頭に、迷彩柄のTシャツの上に白衣を羽織り、ホットパンツに便所サンダルという出で立ちは先生や教授といった人種からはほど遠いが。
会議室最前列にはスーツの人間が十人。ニ列目に白衣が十人。一つ列を飛ばして四列目に俺と真、真のマネージャーの向ノ前友さんが座っている。
「では今回も怪人について新たな情報は得られなかったと?」
最前列のスーツの一人が紘子さんに威圧的に尋ねる。
「そうですねー、ま、当然といえば当然なんですけど」
いつものように天然なのかわざとなのか挑発的に返す紘子さんは続ける。
「この特殊事案とあなた方が呼称してる件に関しては何度も申し上げてるとーり、レベルが違うんですよ。理論も技術もね。ただ辛うじてキューブに対してだけ解析できる『かもしれない』という状態なんですから」
「ならそのキューブの新しい情報はないのか?いい加減ただの報告会には飽きたぞ。仕事をしろ、仕事を」
「ないですね。それ先週も仰られてましたけど、最先端技術用いて一年七ヶ月解析続けて十五パーセント解明ですよ?それを数日で結果出せってーーー」
バンッ、と机を叩く音で紘子さんの言葉が遮られる。それとほぼ同時ぐらいにプロジェクターの電源が切れ、代わりに部屋の照明がつく。
「もういい」
言いくるめられそうになったからか、まくし立てていたスーツは立ち上がり会議室後方出入口に向かって歩き始める。それにつられるようであったり、彼に呆れたりする様に他のスーツ達も立ち上がり始めた。
会議室中央通路沿いにスーツ&白衣という服装で座っていた俺のところで、先ほどまで威圧的な発言をしていた男が立ち止まる。なるほど顔もかなり威圧的だ。
「貴様らさえ……」
鬼の様な顔でなにかを言いかけたが、ふん、と顔を背け早足で会議室を後にした。言いかけた言葉は俺ではなく、「俺達」に言いたかったのか。
チラリと右隣に座る真を見る。学校の制服なのかアイドルとしての衣装なのかわからないが、薄い水色のシャツにチェック柄の短いスカート。相変わらず目立つ金茶の髪をシュシュで一つに結んでいる。顔は初めてテレビで見た時よりも大人になったと思うが十七歳にしてはまだまだ幼い。
「ウザ……」
机の下でスマホをいじいじしながら呟く真に俺は苦笑いでまぁまぁ、とどっちつかずの返事をする。