シャドウくん(4)
最早動かなくなってしまった左腕をぶら下げ、すぐさま立ち上がり右足で怪人の残った右脚を踏みつけ逃さない。追い討ちのように左足で腹部を踏みつける。
「悪いね」
俺の声が紘子さん以外に届くわけがないのだがそう呟く。謝罪のつもりではない。生きるために命を奪うといった「いただきます」に近いような感情から生まれる言葉。
怪人は俺の足を振り払おうと必死にジタバタしたり、両手で俺の足を掴んだりするが状況は変わらない。
俺は右の拳を怪人の胸に当てる。
先ほどのスリーカウントの長さが嘘だったかのように、次の瞬間にはズドンと響き、怪人の胸の真ん中にはどでかい穴が空く。
先ほどまでジタバタとしていた感覚が足下から消え去り、怪人の両手も俺の足からパタリと離れ落ちる。
ガスマスクの様な怪人の顔を数秒ほど見つめた後、ふぅ、と息を吐く。
「紘子さん、終わりました」
「了解。すぐ回収に向かうよー。お疲れさん」
怪人から離れ、空を仰ぐ様に地面に寝転がる。俺の視界の隅ではデジタル数字がカウントダウンを決め込んでいた。その残り時間は20秒。0になった瞬間に身体はピクリとも動かなくなるのでこの体勢がベストだろう。
空を見つめていると安心してきていろいろな事を考え始める。第一に今回もなんとか生きていられること。第二に被害を最小限に抑えられたこと。それから……。
「真め。またライトニングサボりやがって」
独り言の文句を言ってみる。通信は切っているので紘子さんには聞かれていないはず。
ライトニングに稼働時間の制限はなく、出力、強度共にプロトを大きく上回る。今までも考えていたことだが、俺が対峙した怪人をもしライトニング本人が戦っていたらどれだけ余裕であっただろうか。
安心が怒りに変わってきたところでプロトが活動限界を迎える。これで体は全く動かせない。空が見えていたディスプレイの光量も格段に落ちる。
早く回収して欲しい。なんて思ったところで思い出す。
「無理してプロトの左腕壊したの怒られるかなぁ……」
ああ、ちょっと帰りたくなくなった。