シャドウくん(3)
プロトの戦闘可能稼働時間の平均は5分40秒。現段階で1分20秒が経過しようとしている。
武器は両拳に仕込まれた圧縮波動装置のみ。しかもこの圧縮波動、拳を相手に接触させ3秒間その状態をキープさせることで最大火力を発揮するものだ。もちろんどこに当てててもいいと言うわけでもなく、怪人の核と呼ばれる弱点部分にヒットさせなければ相手を完全停止させることは出来ない。
つまり、残りの3分20秒で相手の弱点を見つけ、動きを止めた上で拳を核付近に接触させたまま、二発しか撃てない圧縮波動の一発を放つということ。
「ちょっと無理するか……。紘子さん、あの怪人の『口』どこですか?」
「えっと、映像見直してみた感じ右肩の後ろだと思うよ」
傾向上、口のある場所付近に核はある。となると、喉元かその下辺りか。
よし。
腰を下ろし、先ほどより低く構える。右足の指全体に力を込めるように大地を握る。すると、俺の筋肉の動きをスーツが読み取りキィーンと小さく高い音を上げる。
「おいおーい、荒金くーん!それ3分も持たないぞー!」
「承知の上です!」
力を込めた右足で大地を蹴り、身体を前方へ弾丸の様に飛ばす。怪人が先ほどして見せた様にだ。だが先ほどの様に距離はない。怪人に回避の選択を強いる。右か、左か。
右脚が動き左へ飛ぶ。
理解するよりも早く俺の身体が動く。左足がキィーンと唸り、ガッと大地を蹴る。ここまでは相手のファーストアクションの模倣だ。
狙いは相手の左脚。俺の左手がそれを逃さない。
「!!」
声を上げる訳でもない怪人だが、左脚、左手を通して動揺が伝わってくる。
1。
怪人は俺を振り払うためにフリーの右脚で地面を蹴り、片脚で走り回る。まるで脱ぎかけの靴下を手を使わずに脱ごうとするようだが、スピードはそんなものの比ではない。
2。
視界はぐらぐらで身体中が色んなところに接触させられている。酷いのは左の肩や肘関節の装甲でギリギリ繋がってるというところか。
だけどもう、カウントは、3。
バウン、と音にするならそんな感じの肺や心臓に響く振動が一帯に広がる。
左手で掴んでいたものの感触がなくなり、俺と左腿から下が消失した怪人がコンクリートの地面へと転がる。