プロローグ
彼女の鮮烈な英雄兼、偶像デビューを初めて見たのはいつだったか思い出してみる。
あの日、テレビの中の非日常的な風景に、俺は釘付けになっていた。
怪人が現れ、街を襲い、自衛隊でも歯が立たなかったそれに一人の少女が立ち向かった。
彼女の名前は愛川真。当時15歳の高校一年生。
白い半袖ブラウスの胸元には青色のリボン。捲り過ぎとも思えるスカート。黒いハイソックスにこげ茶のローファーという出立ちは、どこにでもいそうな女子高生だが、金と茶が交じり合った長い髪を一つ結びにした頭は「ギャル」を彷彿とさせるものだった。
少し幼いが整った顔立ちの彼女は怪人を睨みつける様に見つめ、左手を差し出すように挙げた。掌には青白く光る小さなキューブの様なものが浮かぶ。
そして彼女は呟き、そのキューブを握りしめる。
映像ではなんと呟いているのかはわからなかったが、後に知ることとなるその言葉。
「アクト」
彼女が左の掌を開いた瞬間、キューブが展開を始め、見たこともない機械が左手から彼女を覆っていく。
特撮やアメコミでしか見たことのない様ないわゆる変身というやつだ。
彼女を覆った機械はそれこそ機械と言うよりはパワードスーツ。黒光りする鎧の様なボディに、蛍光色のライムグリーンの幾多ものラインが電子回路の様に走っている。
仁王立ちする彼女だったそれに怪人はたじろいでいる様にも見えた。
だが、この怪人も非日常的なこの状況も俺にとっては最早どうでもよくなってしまっていた。ただただ俺は彼女を見て心の底から湧き上がる感情を噛み締めていたのだ。
黒い鎧の彼女のおそらく目であろう部分が、まるでスイッチの入ったPCの様に青白く光を走らせる。
純粋にかっこいい。
この時のことを思い出すたび、俺は身体が震える。奮い立たせる。
黒いパワードスーツを着た彼女の名は「ライトニング」。
そして俺は荒金太一。
彼女の「ライトニング」を演じることになった者である。