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消えし者消え去らざる者

作者: 結崎ミリ

 梨花ちゃんはとっても優しくて紅いリボンの似合う女の子。あたしの一番大事な友達。

 いつも一緒に高校に登校して、同じ教室で勉強して、休憩時間は楽しくおしゃべり、お昼ご飯も一緒に食べて、帰りも一緒に帰っていた。

 そんな日々が三年間毎日続くって当たり前のように思っていたのに。


 梨花ちゃんは交通事故で亡くなってしまった。


 突然の出来事。突然の消失。突然の別れ。

「やだっあたしを一人ぼっちにしないで!」

 身体が痛む、心が痛む。まるで自分の半身を失ってしまったかのような激痛に襲われ、それは数日間続いた。

 痛みが小さくなった時、あたしは梨花ちゃんがもういないことを知った。

 人が死んだらどこにいくの? 死んだらそれで終わりなの? わからないよ梨花ちゃん!

 学校の屋上へ行き、柵を乗り越えて、なんとなく全てがどうでも良くなったあたしは、何故だろう。一滴の涙を流していた。

 涙は流れ続け、隠れていた感情が表に現れ、あたしは涙ながらに空を仰いだ。

「梨花ちゃんどうして死んでしまったの! ねぇどうして!」

 あたしは叫んだ。心の底から叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、声が枯れても心が叫び続けて――――あたしは飛び降りた。


 次に目を覚ました時、あたしは病院の一室で横になっていたの。

どうやら屋上からの落下は木がクッションとなり、結果、手足の骨折だけで済んであたしは奇跡的に助かったらしい。

「知名、相当ショックだったのね。ごめんね、気づいてあげられなくて、ごめんね」

 お母さんは心配そうにあたしを見て、ずっと謝り続けて、手を握ってくれて、その手は涙で濡れていた。

「お母さん、どうして泣いているの?」

 あたしはお母さんが何故そんな表情をしているのか理解できなくて、理解したくて聞いてみた。

「そうね、ごめんね。あのね、なんとなく――――知名がいなくなっちゃうんじゃないかと思ったからなのよ」

「………………」

 あたしは何も言うことができなくて、だって、その言葉であたしは気づいてしまったから。

 あたしが梨花ちゃんに感じていた気持ちと同じなんだって。

 そんなあたしの内心を見透かすかのようにお母さんは続けた。

「でもね、もし人がいなくなってしまったとしても、その人が本当にいなくなることはないの。だって、その人と繋がってきた人の記憶には、強く刻み込まれるのだから」

 刻み込まれる、その言葉があたしの身体中を駆け巡り、強く心を締め付ける。

 きっと、お母さんが、あたしが消えてしまうかもしれないって感じた気持ちと、あたしの梨花ちゃんに感じていた気持ちは似ていたのかもしれない。

 例えあたしの肉体が朽ちていたとしても、お母さんの記憶からあたしが消えることはなかっただろう。たぶん、永遠に。

 お母さんは続けた。

「だからね知名、あなたが梨花ちゃんのことを忘れない限り、彼女はあなたの中に刻み込まれ続けるの。あなたが忘れようとしない限り、ずっとね。それがあなたにとって良いことなのか悪いことなのか、今はまだわからない」

 お母さんはあたしを自分の胸に抱き寄せて、あたしはお母さんの温もりを感じた。もしかしたらお母さんも、あたしの温もりを感じたかったのかもしれない。それくらいぎゅっと、強く抱きしめられた。

「梨花ちゃんがいなくなってしまったこと、今はまだ乗り越えなくてもいい。でもいつか、乗り越えなきゃいけないの。どれだけ時間がかかってもいい。だからね知名、精一杯生きなさい。お母さんはもちろん、梨花ちゃんもそう望んでいるはずだから」

「お母さん――――ごめんね、ありがとう」

 あたしもお母さんを強く抱きしめた。涙を流さなかったのは、たぶん、あたしが現実を見ようとしていないからだと思う。まだどこかで、梨花ちゃんがいなくなってしまったことを受け入れられない自分がいるからなんだ。

 人は死んでも完全にいなくなるわけじゃない。誰かの記憶に残り続ける。

 あたしは梨花ちゃんのことをずっと忘れないだろう。でも、いつか梨花ちゃんの死を完全に受け入れなくちゃならないんだ。

「いつか、ありがとうと、さよならを言いに行くね。梨花ちゃんに」

 それが、生きている人が死んでしまった人へ、唯一できる恩返しだと思うから。

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