慈悲
俺がブモーの首へ全力で振るったクーの刃は、ブモーの下へはたどり着かなかった。
ブモーに当たる寸前で刃が止まったのだ。
俺が力を抜いたわけでも、ブモーを殺すことを躊躇ったわけでもない。
「なんで...!?」
思わず呟きながら、さらに力を込めていくが、刃は少しも動こうとしない。
そうしている間にブモーの棍棒を腹がとらえた。
そして、10メートルほど吹っ飛ばされたところで
なんとか体勢を立て直し、地面にクーを突き立て勢いを殺す。
内蔵のどれかがやられたのだろう。
口から大量の血を吹き出した後クーに尋ねる
「...クー...今のは?」
「ブモーの棍棒で吹き飛ばされた。そんなことも分からんかったか?」
「...ちげぇよ、それはわかってる。...俺が聞きてぇのはブモーを斬れなかったことだ」
「......」
「...あれはブモーのせいか?...それともあの棍棒か?」
「...違う。あの棍棒は魔具じゃから特殊な能力は持っておるが、魔具の中にそのような能力を持ったものは無い」
「...じゃあなんでだよ」
「...すまん」
「謝れって言ってんじゃねぇんだよ!なんでか教えろ!」
「...すまん」
「だからっ!!」
「あらァ?仲間割れかしらァ?ダメよォ、オンナのコにはやさしくしなくちャ」
俺がクーの歯切れの悪い物言いに苛立っていると、頭上から女の声が聞こえた。
その声を辿り上を向くとブモーが立っている以外に他に声を発しそうなものは無い。
「その声は...やはりダグザだったか」
「やっぱり叢雲だったのねェ。失敗作のくせにまだいきてたのォ?」
「死にたくても死ねんのじゃよ。失敗作でも魔具じゃからな...」
「...失敗作?クーがか?」
「そうよォ。主のくせにきかされてないのねェ、かわいそう。フフフッ」
「...クー、どういうことだ?」
「ワタシが説明してあげるわァ。叢雲は話したくないみたいだしィ」
クーを見つめるが、刀の状態のせいでその顔は見えない。
でもなんとなく、クーが悔しそうにしている気がした。
「まず、魔具にはそれぞれ一つづつ罪を背負っているのォ。ワタシが色欲の罪を背負っているようにねェ。でも、叢雲は特別。そのコだけは罪の他に美徳も背負っているのォ」
「...美徳?」
「そうよォ。罪とは対になるもの、罪を裁くために創るられたもの。それが美徳。そのコはそれを背負っているのォ」
「...罪を裁くためのものが美徳なら、...なんで美徳を背負ったクーがお前らを斬れなかったんだ?」
「それは、そのコの背負う美徳、『慈悲』の能力のせい。『慈悲』の能力は、この世の全てを赦し、なかったことにする能力。美徳を背負った者は、罪無き者を傷つけることはできないのォ。だから『慈悲』を背負った叢雲は攻撃ができない。これが失敗作じゃなくて何が失敗作なのかしらァ。ウフフフフフッ」
ダグザ(クーがそう呼んでいたから、多分そういう名前なのだろう)が、心底可笑しそうに笑う。
「...クー、今のは本当の話か?」
「...うむ。...黙っていて済まなかった」
「...気にすんな。黙ってたのにもなんか理由があんだろ?まぁ、それはあとから聞く。今はとりあえず、晩飯の調達だ」
それを聞いて、ブモーが笑う。
「ブモモモッ。聞いてなかったのかモー?その刀を使う限り勝つことはできないモー。それにお前は、さっきの攻撃でボロボロだモー。それでどうモーに勝つんだモー?」
「変な笑い方してんじゃねぇよ。敵に作戦教えるわけねぇだろ?二本足でもやっぱり頭は牛のままだな」
「それがお前の最後の言葉モー!」
ブモーを棍棒を俺の頭へと振り下ろす。
その棍棒が、地面だけを砕く。
まぁ、俺はブモーの後ろにいるんだから、当たった方がビックリだ。
「モッ!?なんでうしろにいるモー!?あの傷じゃ動けないはずだモー!」
「まぁ、あの傷じゃさすがに動けねぇな」
「じゃあなんで...」
「赦してもらったのさ、傷をうけてしまったことを。ほんまクーさんの慈悲深さは五臓六腑に染み渡るで〜」
「そんな方法が...!?」
ダグザが驚きの声をあげる。
「さぁ、これでダメージを与えられないのは同じこと!ここから逆転じゃ!!」
「あっ!俺が言いたかったのに!」
前回、ブモーの武器を斧と書きましたが、前々回は棍棒と書いていたので、棍棒に統一しました。
前回も斧を棍棒と修正しています。
前回で混乱させてしまった方、本当にすみません。




