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仕組まれた戦い

 待望の仲間が増え、僕たちは三人で山道をゆっくりと歩いていました。ラナの靴は、町を出る直前に靴屋で見繕ってもらい、新調しました。そのおかげか、ラナの足取りはこれまでよりも軽くなったようです。

「次の街までは、そこまで距離はありませんよ。三日もあれば着くことでしょう」

「そっか。で、どれくらいでかい街だ?」

山道を歩いている途中、太陽が真上に来た時間に僕たちは地図を広げていました。フェルスの村を出てからひたすら東に向かって歩いていますが、そろそろ「アクアリーム」という水の都に辿り着くところでした。有名な建築家によって建設されたと云われているその街は、水をモチーフにした建造物が多くあるそうで、多くの観光客で賑わうところでした。

「アクアリームです……避けた方がいいですね」

「そうだな」

アトは、僕たちの答えを聞いて不思議そうに首を傾げました。それを見て、僕が理由を説明しました。

「また、レナ……ラバースの刺客が忍び込んでいたら、フェルスの町の被害だけでは、想像がつかないほどの犠牲者が出るはずですから」

「でも、そういうときのために、武器を持って旅をしているんじゃないの?」

「それもそうか」

あっさり頷くラナに対して、僕はすぐさまラナに対して厳しい目を向けました。

「出さずに済むはずの犠牲を食い止めても、何の利益にもなりませんよ」

厳しくそういうと、普通なら落ち込むのが人間だと思いますが、ラナはそういうものを感知しませんでした。

「それまたそうだな」

からっとした性格をしているので、根に持ったりすることもありません。ラナのいいところでもあり、悪いところでもあります。

「でも、腹減ったしなぁ」

「ラナ……」

フェルスの町でお世話になった、シサからいただいたパンは、すでに殆ど食べてしまった為、食料調達も確かに必要ではありました。ですが、大きな犠牲を招く可能性があると分かっていながら、立ち寄る訳にはいきませんでした。

「僕も、お腹空いた……」

「……子どもがふたりになりましたね」

「リオ、何か言ったか?」

わざとなのか、本当なのか。すっとぼけた声でそういうものですから、僕は溜息をつくと地図を小さくたたみ、ズボンのポケットの中へとしまいました。

「いいえ、何も」

そして、立ち寄る予定ではなかったアクアリームの街に向かって、歩みはじめました。

 警戒するに越したことはありませんが、警戒のし過ぎで何も知らない一般市民にまで怪しまれては、困ります。特にアトは黒髪に黒目。ラナは緑の目と、ただでさえ異彩を放っているのですから、大人しくしている必要がありました。

「よーし、アクアリームにいっくぞー!」

「あっ、ねぇ……ラナ? リオ?」

後ろからアトが声をかけてきたので、僕は足を止めて振り返りました。ラナも足を止め、アトの方を見ていました。

「なんだ?」

「どうかされましたか?」

僕たちがそろって訊ねると、アトはもじもじとしながら、何かを口にしました。僕にはそれを聞き取ることが出来なかったので、もう一度訊ねようとしたときでした。

「気にすることはない。な、リオ」

「えっ……あ、はい」

良くあることでした。ラナは、動物並に耳がよかったのです。いえ、耳だけではなく、嗅覚、視覚、すべての感覚がずば抜けてひとより優れていました。そのことにラナ自身は、今では気付いているのですが、気付いていなかった頃は、そのことをとても気にしているようでしたので、僕はこういうときは、ラナに合わせるようになりました。ただ困ったことは、これ以上この会話を続けることが僕には出来ないということです。

「アクアリーム、アクアリーム」

ラナが口ずさみながら歩くので、アトはほっとしたのか、戸惑う僕を追い越し、ラナのすぐ後ろを歩き出しました。一番小さなアトを中心に歩かせるのは、正しいパーティーと言えるでしょう。




 王国フロートがあるのは「セリアス大陸」というところです。今、別働隊として動いている通称「サノ」は、「オズノ大陸」を旅していました。




「どうした、フア」

私の近くから離れない、幼き頃からの付き合いであるこの青い鳥の名前だ。フアの外見は、孔雀のようだが、確かな翼と長い尾を持っている。空飛ぶ姿は、実に美しい。私が指笛を吹けば、どれだけ遠くに飛んでいても、その音を聞きつけて舞い降りてくる。

 そのフアが、先ほどから落ち着きが無い。腹が空いている訳ではないだろう。昼食も一緒に取っている。これは、動物の勘というものだろう。これからきっと、何かが起きるということを、察知しているのだ。


 私の身に何かあるのか。


 それとも……。


「約束の地はレラノイルだが……無事に合流できるのだろうか」

レラノイルはセリアス大陸の港町だ。私は別の大陸の先端に今は居る。「エリオス」王国があった場所に居た。海に面しているここから、船に乗り、ラナたちの居るセリアス大陸を目指すのだ。

 別行動を取っていることにも、意味はある。だが、ラナがレジスタンスを旗揚げしてから早二年。初めて結集を呼びかけられ、再び顔を合わすことにも、意味はある。

「フア、ラナたちに何かあるのか?」

甲高い声でフアはひと鳴きした。私には、それがまるで「そうだ」と応えているように聞こえた。いや、きっと聞き間違いではない。長い付き合いだ。人間ではないが、コミュニケーションはとれていると自負している。

「……問題ないか」

ラナもリオも、簡単に死ぬような人間ではない。何か起きるのだとしても、きっと、乗り切るだろう。私はそれを信じて、船に乗るまでだ。

「行くぞ、フア」

フアが私の背後を飛んでいるのを確認すると、再び歩きだした。




 水の街の最初のオブジェ。入口の「マリネード」という門が目に入りました。その門の造りひとつで、僕はその美しさに目を奪われました。貝殻などで装飾されたマリネードは、太陽の光の当たり方で、きらきらと虹色を魅せていました。

「立派なものですね。素晴らしい」

僕が感心して足を止めていることに気にも留めず、ラナとアトはつかつかと街の中へと入って行ってしまいました。少し歩いたところで足を止め、僕がマリネードのところで足を止めていたことに気付いてくれたようで、こちらを振り返りました。

「どうした? リオ。どっか食べに行こうぜ?」

その言葉を聞いて、芸術より食い気ですかと軽く溜息をつくと、それはそれでラナらしいと思えた為、ラナの元に行くと、二人分の食事代をラナに渡しました。

「ラナ、食事ならアトとふたりで行ってきてください」

「……? リオは行かないの?」

アトがきょとんとした目で問いかけるので、僕は微笑みながら応えました。

「僕は、街並みを少し見てきますよ」

「そっか。それじゃ、また後で合流な!」

これまでも、こうしてラナと分かれて行動してきたことがありました。常にふたりで居る訳ではないのです。ですから、僕もラナも、特別気にすることはなく、お互いの欲求を満たす為に、少し時間を使おうということでした。




 ここで別行動を取ったことを、僕は後に酷く後悔することになる……なんてことを、今は知る由もありませんでした。




「美しい街ですね、本当に」

僕はひとり、この街が一望出来る教会前の公園から、景色を眺めていました。とてもこころが安らぎます。ラバースに居たときは、ラナの周りにしか、こころが安らぐ場所がありませんでした。日々鍛錬、そして、ひとの命をときには奪う隊務。汚い仕事を負わされ、安い賃金で仕送り生活をしていた僕にとって、そこは決して楽園からは程遠い場所でした。それでも、そこを辞めなかったことは、故郷で仕事を探すよりは剣の腕を磨きながらお金も貰える、そして、傭兵ではあるけれども、フロートという大国の左翼を担えるという肩書きに、多からず魅力を感じていたからでしょう。それが今となっては、魔逆の立場です。そして、こちらの方が心地がいいというのですから、世の中とは、人生とは、分からないものです。

 目を瞑って風を感じ、物思いに耽っていると、この街の子どもでしょう。僕に声をかけてきました。

「兄たん。旅のお方?」

「えぇ、そうですよ。どうかしましたか?」

子どもは、ニカっと笑い、僕の手を引っ張りました。突然のことで、どうしたものかと思い、僕は訊ねました。

「キミ、どこへ連れて行くんだい?」

子どもはただ笑うだけで、そのまま僕の手を引き、街の中を歩いていきました。これといって行く宛てがあったわけでもなかった僕は、これも何かの縁かと思い、子どもに導かれるまま、歩いていきました。




「おっちゃん、この店で一番安い定食、二人前!」

「あいよ!」

ラナは、リオから渡されたお金をめいっぱい使うことは無く、いくつか在った食堂街の中でも、メニュー表を見て一番安いお店に入り、かつ、そのお店の中でも一番安い品物を選んで頼んでいた。ラナは、てっきり食べ物には目が無い人なのかなって思っていたから、ちょっとだけ、意外だった。

「リオ……どうして来なかったのかな」

僕がぽつりと呟くと、ラナは「あぁ」と笑って言った。

「リオはこういう街並みや風景が、好きなんだ」

ラナは、リオとの付き合いが長いみたいで、リオの好きなものとか、苦手なものとか、把握しているように見えた。僕には、幼馴染なんていうものも居ないし、仲のいい友達とかも居なかったから、羨ましいなって思った。


 ラナもリオも、僕が黒魔であることしか知らない。


 それなのに、急に「仲間にならないか」って、言ってくれた。


 嬉しかった。


 でも、ちょっとだけ……不安だった。


「リオは大人だね」

僕がまたぽつりと呟くと、今度はラナが大きく反応してみせた。

「俺も大人だぞ」

それを聞いて、思わず目を見開いて驚いたのは、僕だった。

「ラナ……大人だったの?」

僕の言葉を聞いて、ラナは口に含んでいた水を一気に吹き出した。

「……ったく、みんな酷いなぁ。リオと二つしか歳、違わないぞ?」

「リオっていくつなの?」

僕が訊ねると、ラナは両手でピースしてくるものだから、何だろうかと一瞬思った。

「二十二だ」

僕はそれを見て聞いて、ピースは歳の数を表していたのかと納得しながら、思わず可愛いひとだなって、笑えて来ちゃった。

「なんだ。じゃあ、大人といっても成人したばかりなんだね」

どこかで納得した僕は、水をごくりと飲んだ。すると、吹き出した水をおしぼりで拭きながら、ラナが僕に聞いてきた。

「そういうアトは、いくつなんだ?」

「十四だよ」

「ふ~ん」

僕は、内心ドキドキしていた。次に、とあることを訊ねられたら、どうしようかと不安になった。でも、それは要らない心配だったみたい。ラナは、それ以上の情報は必要ないかというように、何も聞いては来なかった。

 僕も、ラナとリオに何かを聞いたことはなかったけど、ラナたちはまるで関心がないかのように、本当に名前しか知らない僕のことを、仲間として受け入れてくれていた。それが良いのか悪いのかは分からないけど、これまで孤独だった僕には、初めて出来た旅仲間。だから、この関係が壊れないでいてくれるのなら、それでいいと思ったんだ。黒魔として生まれてきた時点で、人生は終わっていると思っていた僕のこの道を、ラナとリオは変えてくれるかもしれない。そんな期待さえ持たせてくれた。


 僕は、感謝しなくちゃいけない。


「はいよ、兄ちゃん」

「お、来た来た!」

美味しそうなお魚焼き定食。何の魚だろう。青魚の塩焼きだった。それに、汁物と麦飯。とてもいい香りがした。

「うまそうだな! これでいくらなんだ?」

「百二十フロンだよ」

この世界の通貨単位はF。フロンっていうんだ。フロートが支配する前は、全世界共通通貨なんて無かったから、その点だけは、便利になってよかったかもしれない。だけど、フロートの圧制は本当に酷くて。


 そういえば、ラナとリオはどうして旅をしているんだろう。


「それは安い! しかも美味い!」

「兄ちゃん、ノリがいいねぇ。まけて百フロンにしてあげるよ!」

がっちりとした背格好の店主は、がはははっと笑うと、ラナも楽しそうに笑っていた。僕はこういうノリのひとに今まで会ったことが無かったから、ちょっとどう接していいのか戸惑うこともあったけど、なんだかあったかくって、いいなぁ……って思わず笑みが浮かんだ。こういうひとになりたいし、こういうあったかいひとって、好きだ。


僕は、魚をぱくぱくと食べながら、店主とラナのやり取りを見て過ごした。




 子どもと一緒に歩いて数分。木々に囲まれた小さな家に辿り着きました。街のはずれで、ひと気はありません。しかし、どこか温かい感じのする場所でありました。良い雰囲気だと僕は優しい目でその家を見つめていました。

 今まで僕の手を持って放さなかった子どもは、漸く僕から離れると、家の扉を開けました。すると中から、車椅子の女性が出迎えてくれました。

「おかえりなさい、ククリ」

「お母さん!」

ククリと呼ばれたこの子どもは、母親なのでしょう、女性の方に走っていきました。

「お母さん、お客さんだよ!」

僕は軽く会釈をしました。すると女性は、とても優しい笑みを浮かべてくださいました。しかし、直ぐに心配そうな表情を浮かべ、僕に問いかけてきました。

「あの、もしかしてこの子が無理に……」

女性がそう言いかけると、ククリは再び僕の手を掴み、室内に入るよう引っ張りました。

「兄たん、お部屋はこっち!」

僕の意志はまるで関係なく、白を基調とした小さな家の中へと案内されました。

「あ、あの……ちょっと」

無碍に手を振り払うには、あまりにも純粋な目を持った小さな子どもだった為、僕は戸惑いながらもされるがままに室内に入りました。大方予想はついていますが、念のため僕は訊ねてみることにしました。

「あの、どういうことでしょうか?」

「ここは、僕のお家だよ。お母さんと宿屋をしてるの」

宿主によく助けられるものだと僕は思わず笑いました。しかし、何故僕が笑っているのか分からないククリはきょとんとしていたので、笑うのをやめ、室内をぐるりと見渡してから、ククリに視線を向きなおしました。

「でもね、ここは街のはずれだし、お母さんは病弱で。お父さんは……」

この家に、父親が居る気配はありませんでした。それ以上先を続けさせるのは、ククリの傷口に触れることになると思った僕は、言葉を遮りククリの頭を撫でました。まだ、僕の腰辺りまでしか背丈のないこの小さな少年は、必死になって宿を護ろうと、母親を護ろうとしているのです。助けになれることがあるのならばしたいと、こころから思いました。

「ククリ。もうあとふたり、ここに今晩泊めていただきたいのですが……」

すると、ククリはパっと笑って窓を開けました。そして、嬉しそうに声をあげました。

「お母さん! お客さんが三人だよ!」

「よろしいのですか?」

僕は、にこやかに応えました。

「えぇ、大丈夫ですよ。宿を決めるのは僕の役目ですし。ここの雰囲気が気に入りました。何より、ククリ……良い子ですね。こういう子に弱いんですよ、僕」

「すみません」

「いえ、こちらの方こそ。お世話になります」

「兄たん、手伝って! お布団敷くの!」

確かに、ククリのお母さんは足が悪いようですし、病弱と言ってましたので、三人分もこんなにも小さなククリに準備は無理でしょう。僕が手伝う方が早そうですし、まだ、ラナたちは食事を楽しんでいる頃だと思いましたので、僕は喜んで手伝わせていただくことにしました。




「ふ~……食った、食った!」

満腹になり、満足したラナはお会計を済ませると、店の外に出ようと扉に手をかけた。すると、ラナが一瞬眉をひそめた気がしたんだ。

「ラナ?」

僕が不安げに声をかけると、ラナは扉を一気に開いた。そこで目にしたもの、それは……数十人もの兵士と、ラナにそっくりなひとが立っていた。

「……レナ」

「今日こそは、俺が勝つ」

レナと呼ばれたその少年は、ラナに瓜二つの姿だった。周りにはべらしている青年兵士は、武装していて、怖い形相をしていた。レナ以外の兵士は皆、剣の柄に手をかけて、いつでも襲いかかれるよう、指示を待っているようだった。それを見て、僕は心底震えた。こんな人数の兵士に囲まれたら、確実に殺される。軍服はラバースのものだった。


 黒魔は悪魔。


 見つかれば、殺される。


 僕は、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


「今日はそんなおまけまで連れてきたのか? お前も暇だなぁ」

ラナが何を考えているのか、僕には分からなかった。そんな、相手を煽るようなことを言って、変に怒らせたりでもしたら大変だ。ここは、素直に従ったほうがいいのかもしれない。

「強がりを言ってる余裕はないんじゃないか?」

「さぁね」

ラナの表情に、わずかに焦りが見えた。一方、薄っすらと笑みを浮かべる、ラナにそっくりな容姿のレナには、確かにゆとりがある。そのレナの瞳に、僕の姿がちらりと映った。視線がぶつかった瞬間、僕は思わず後ずさった。

「ラナン。お前こそ、妙なモノを連れているな? それは、黒魔術士ではないのか?」

バレた瞬間、足が震えた。さっきまでの楽しい空気なんて、もう、とうの昔に消えてしまった。

「違う! アトは……っ」

「違う? 何が違うんだ?」

「……っ」

ラナはその身体で僕の姿を咄嗟に隠した。

「ラナ……」

怖くてたまらなくなった僕は、ラナの服の後ろを掴みました。

「大丈夫だ、アト。俺が護ってやるからさ! こんなの、食後の良い運動さ!」

ラナはからっとした笑顔で僕の顔を見た。まるで、本当にこんなこと問題ないという感じさえした。そんなはずはないのに、さっきまで、焦りを見え隠れさせていたのに……どうして今、こんな風に笑顔で笑っていられるのか、不思議に思った。

「ラナン。これはラバースの正式命令だ。お前とその黒魔術士を始末する」

それが合図だった。一斉に兵士がラナ目掛けて斬り込んで来た。ラナはすぐさま背中の剣を抜くと、僕を背に庇いながら、ひとり、ひとり襲い掛かってくる兵士を斬り崩していった。背中にスペースが出来ると、僕に危険が及ぶからか、ラナは殆ど場所を動かず、相手が攻め込んでくることを待っていた。自分の間合いに入ってきた兵士から順に、切り倒している。

 金属音が響き渡っているのにも関わらず、誰一人としてここの街の住民が騒ぎ出てこないことに、僕は気付いた。

「ラナ、何で街のひとは……」

伝えようとしたそのとき、ラナは大柄の男の上から振り下ろされた剣を必死に食い止めてるところだった。

「仕組まれていたんだ。ここの住民は、ラバースの意のまま。全て、計算されていたんだ……そうだろ、レナ!」

レナは、やはり薄っすらと笑みを浮かべるだけだった。

「いい味だっただろ? 百フロンの定食は」

僕は心底ぞっとした。

「ラナ!?」

「……」

さっきまでの、ラナじゃなかった。顔色が悪い。まさか、ラナの食べていたものに、毒か何かが紛れ込んでいたのだろうか。いや、きっとそういうことなんだ。全てが仕組まれていたことなんだ。ラナの顔色が悪くなっていた。

「ラナ……降伏しよ。逃げられないよ」

ラナは大柄の男を払いのけると、ひと息吐いて再び襲い掛かってくる刃を寸でのところで交わしていった。

「逃げる? 逃げたりなんかしない。俺は……勝つ」

「どうやって!? 無理だよ、ラナ!」

うっかり背後にスペースが生まれていたことに気付かず、僕を狙って刃が飛び交ってきた。僕は思わずラナの名前を叫ぶと、ラナは僕に刃が到達するより早く反応し、身体をひねり、左から右へと剣を振った。すると、相手の剣を遠くへ吹き飛ばし、僕の身体を強く抱きしめてくれた。

「ラナ、僕も戦うよ!」

身体は震えるけど、僕は魔術士だ。だから、魔術を持たない剣士相手なら、僕にも手伝いが出来るかもしれない。僕は両手を前に突き出すと、呪文を唱えようとした。そのときだった。

「よせ! もしアレを使えば、言い逃れが出来なくなるぞ!」

「で、でも……!」

ラナのいう「アレ」とは、勿論「黒魔術」のことだ。でも、今使わなかったとしても、相手はすでに僕が黒魔であると気付いている。言い逃れる術なんてないのだから、一か八かで、魔術を発動し、ここに居るラバース兵を全て倒そうと思った。

「やっぱり、僕も戦うよ!」

「駄目だ!」

それでも、ラナは頑なにそれを拒んだ。滲み汗が浮かんでいる……苦しいんだ。でも、気付けば数十人も居た兵士も、ラナによって残り十人くらいまでに減っていた。ラナは今のところ、かすり傷さえ負っていない。僕を庇いながらだから、動きにくいだろうに、それなのにここまで動けるラナは、かなりの剣士だということが窺えた。

「大丈夫だって! 俺が絶対に護るから!」

気丈に振舞うラナの目は、真剣そのものだった。僕が声を発したり、余計なことをしない方が、ラナの邪魔にならないと感じ取ったので、これ以上でしゃばった真似はよそうと思った。




 ラナは、ここに居るラバース兵よりもずっと、戦いなれているように見えた。




 ラナは、一体何者なんだろう。




 緑の瞳の人間なんて、出会った事がなかったし……。


 きっと、何か特殊な力を持っているように思えた。


 だけど、だからといってこの不利な戦況をどうにか出来るのかは、分からない。


 僕も助力出来ればいいのに……と、奥歯を噛み締めた。




 ラナは滲み汗をかきながら、僕を庇って戦い続けた。





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