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命を賭けた訴えを聞け

 性善説、性悪説。


 そういうものがあるけれども、俺は性善説を信じたいと思った。


 だからこそ、ひとを信じるし、ひとを裏切ったりなんて……俺はしない。


 だが、どこまでも「闇」に堕ちた人間が居ることも、知ってしまった。




 だから俺は考えた。


 俺に出来ることをしようと、俺に出来るすべての力を捧げよう……と。


 その為になら、命すら惜しくはない。


 世界が「平和」になるのなら。


 みんなが、大切な仲間たちやこの世界に住む人が、笑って暮らせるのならば。




 そう、こころから思ったんだ。




「皆の者。よくぞ集まってくれた」

国王の演説が、ほどなくして始まった。いよいよ、そのときが来る。だが、リオスたちが動いている様子は窺えない。この大人数の中に紛れ込んでいる可能性もあるが、民衆が集まり過ぎている。最前列に居なければ、動けない程だ。数百という数は集まっているように思える。他の村や街からも、見物客が集まっているのだ。レジスタンスのリーダー処刑のビラは、各地方にも配られている。

「ここに居る男、ラナンは罪人だ。その容姿に、騙されてはならぬ。この、平安の時代を壊し、自らの世界を築こうとしている謀反者なのだ」

どこが平安だ。それは極僅かな金持ちだけじゃないかと、私は内心で毒づいていた。私は、この国王に忠誠など誓ってはいない。

「我が国の優秀な兵士、ラバースの者を何人も殺す、残虐者だ」

それも嘘だ。ラナンは決して、ひとを殺したりはしない。自らが、どれだけ窮地に追いやられようとも、殺しは決してしなかった。それは、ラナンがラバース兵であった頃から変わらない、ラナンのスタイルだった。

「だがしかし、この度世界最強を誇る部隊、レイアスの者が捕らえた。レイアスが居る限り、この世界は安泰だ」

集まった民衆たちは沸いた。歓声を上げ、盛り上がりは頂点へと達しようとしていた。

(まだか……)

リオスたちが来ているならば、もう動き出しているはずだ。否、動き出していなければ、手遅れになる。私は手に汗を感じた。

「だが、この者を生かしておけば、このような悪党は増えていく可能性もある。故に、この者には、死刑を言い渡す」


 一瞬、民衆の歓声が静まり返った。


「罪人、ラナン。何か、言い残すことはあるか?」

国王がそう言うと、ラナンは静まり返った民衆に向かって、語りかけるように言葉をはじめた。

「悪党とか、そういうのは置いといてさ……どうして、俺たちみたいなレジスタンスが出てくると思う? 本当に平安な時代なら、平癒されているなら、俺だってレジスタンスは立ち上げたりなんかしなかった。いや、する必要なんてなかった」

凛とした声。研ぎ澄まされた澄んだ声は、この静まり返った大広場に響き渡った。民衆たちは、ラナンの言葉に明らかに引き込まれている。その、真っ直ぐで嘘偽りのないような曇りなき声に、こころを奪われはじめていた。国王は、揚げ足を取られ多少不機嫌になっているようだが、それも今終わると思えば気分はいいのだろう。黙って聞いていた。

「俺は元ラバース兵だった。その頃から、少しずつこの世界の異変に気づいていた。世界は、フロートのモノになっている、と。それではいけない。この世界は、生きている全てのものでなければならない。ラバースを辞め、二年間世界中を旅して、飢えているひと達を沢山見てきたんだ」

誰も、声を発する者は居なかった。ここに集まっている者は、おそらくは皆金持ち。飢えているもののことなど、考えたことは無かったのだろう。自分さえよければそれでいい……そんな風に、国王と同じような思考の者も、少なくは無いはずだ。そんな中、ここで全てを味方につければ大きな成果だ。

(もしやラナンは、最初からこれを狙って……敢えて捕まったのか?)

私は、ラナンの顔を見ようと掲げられた貼り付け台を見上げた。太陽の光を浴び、眩しく輝いていた。

「自分の保身は、確かに大事だ。だけど、自分だけよければ、自分さえよければあとの仲間がどうなろうと、いいのか? あったかいご飯を食べている中、何も食べるものも無く、飢え死にしていく者が居るのに、それを平安と言ってもいいのか? それは、真の平和なのか?」

「そ、そうだ……確かにそうだ!」

そのときだ。民衆の中から、声を発する者が遂に現れた。

「この少年を、解放してあげてください。国王陛下!」

「人殺しはいけない。この者がどのような者であっても、ここで処刑をすれば、国王陛下までもが人殺しになってしまう……!」

「陛下っ!」

「国王陛下……っ!」

「……っ!」

苛立ちもピークに達したのだろう。国王は、険しい顔つきで私の顔を睨んだ。それから、民衆たちに渇を入れる。

「この者は、皇女を誘拐するような男であるぞ! 騙されるでない!」

「私は、自ら望んでその者のところへ行っただけです!」

私はハッとした。遥か後方から、ラナンよりも高い声、女性特有の綺麗な声が男たちの中に響き渡った。

「ルカナ……だと? 監禁していたはずだ。何故ここに!」

自らの唯一の子どもだというのに、その娘さえ監禁するような国王が、平和を築ける訳は無かった。流れが一気に変わってきた。

「ラナンを離しなさい、カガリ。皇女の命令です!」

「カガリ。貴様の主は私だ。構わぬ、声を上げた者全て、焼き尽くしてやる! カガリ、貴様はラナンを殺せ!」

「……」

「カガリ!」




私は、動かなかった。




 目の前で、世界が変わろうとしている。


 これこそが、「革命」というものなのか……。




 風が吹く。


 新たな時代を、告げる風が……。




 私は眩い光に包まれる少年を、ただ見守っていた。




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