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信念を貫き通せ

 何を考えているのかなんて、分からない。


 ラナンのすることは、私の常識を逸脱していた。


 だが、それが不誠実であったり、間違っていたことなどはない。


 今の私には、信じることしか出来ない。




「明日、謁見の間で陛下に会わせてやる」

意識を失ったままの男を、俺は牢屋にぶち込んだ。馬を待機させていた為、歩きよりも早く城に辿り着けた。しかし夜も更けていた為、ザレス国王はすでに就寝。その邪魔をせぬようにと、隊長から仰せつかった俺は、ブロンドの色素の薄いさらさらの髪の、華奢でどう見ても女にしか見えない男を、鉄格子越しに見下ろした。

「脆いな」

物言わぬ「ソレ」に対して、俺は見切りをつけると踵を返して自らの部屋へと戻ろうとした……そのときだった。見覚えのある男とすれ違う。

「こんな時間に……何の用だい? カガリさんよ」

カガリ。ザレス国王の唯一「隊」に属さない直属の臣下。かなりの剣術の達人だが、魔術士ではないため、レイアスには当然のことながら、入れない。一時期、ラバースの最高位、Sクラスの隊長を務めていたという話を聞いたこともあるが、基本的には長いこと、国王陛下直属臣下であり続けている謎の男だ。身長は百七十半ば程。中肉中背の色素の濃い茶髪を、肩を越すほど伸ばすミディアムヘア。それを、緑のリボンでひとつに束ねるのが、カガリのスタイルだ。瞳の色は青。「空」を思わせる色をしている。服装は動きやすいように、袖も腕辺りまでしかないものを好んで着ている。いつも首から青色に光る石をぶら下げているのも特徴だ。

「……レイザか」

俺は、レイアスの中でも新参者だった。だが、性格がジンレート隊長に似ているからか、隊長と国王に幸いにも気に入られ、待遇よくされていた。片やカガリは、国王と付き合いが長いはずなのに、国王から……いや、全ての者から「疫病神」と言われ、忌み嫌われていた。

「ラナンに会いにでも来たのか? お前には、面識も無ければ、関係もない奴だろう?」

「……」

男は普段から無口に近かった。単に、話す相手が居ないということでもある。

「無視か? まぁ、いいさ。あまり勝手にうろつくな。これは、レイアスの手柄だ」

「分かっている」

そう言うと、カツカツと靴音を石畳の廊下に響かせながら、ラナンの眠る牢へと向かっていった。単なるもの珍しさ、もの見たさから、ここへ来たのだろう。俺は特に気にすることなく、高度な魔術を放ってきた疲労感に加え、長距離移動の疲れもあった為、足早に地下牢を去った。




「……ラナン」

少年は、黙っていた。だが、呼吸音で起きていることは分かった。他のレイアス兵には、意識を失っていると思わせているようだが、私の耳は……身体は、誤魔化せない。

「何故、そうしているのかは言わなくてもよい。ただ、何故捕まった。お前の力ならば、レイアスの攻撃さえも、撃破出来るだろう?」

「……」

返事は無かった。誰かに聞かれている可能性を考えてのことかもしれない。


 レイザは、私とラナンとの間に何も関係性は無いと思っているが、実際はそうではない。私は、ラナンを実の「弟」のように可愛がっていた。


 このままでは、最短で明日……いや、三日後。長くても、一週間後には処刑されてしまうであろう。ザレス国王は、近年稀に見るほどの冷淡かつ残酷な人間だ。血なんて通っていないようにさえ思える冷たい目をしている。先ほど、ラナンによって誘拐されたとレイアスからの報告ではあった、ルカナ皇女とも会ったが、まるで彼女とは目が違っていた。

ルカナ皇女は、ラナンは自分のせいで捕まったのだと、自分を責め、涙を流し、国王に「ラナンの解放」を求めていた。しかし、それが通るはずなど無かった。国王はきっと、見せしめにラナンを民衆の前で処刑するつもりなのだ。


「ラナン。逃げ出せるのならば、今夜中に逃げ出せ。明日、国王の下に連れて行かれれば、それまでだ。今は拘束も解かれているんだろう? 今しかない」

「……」

これ以上私も、ここに居ては怪しまれると思い、嘆息をつくとラナンに背を向けた……そのときだった。

「カガ……さんきゅな」

「……!」

私はすぐさま振り返った。しかし、ラナンは気を失ったフリをしたままであり、こちらを見ている訳では無かった。それでも、久しぶりに聞いたラナンの声は、これから死にゆく者のような、か細いものではなく、凛としており、何か勝機に満ちた香りのする声だった。

「……武運を」

私はふと笑みを浮かべると、その場を後にした。




「国を……倒すんだね」

アトは静かにそう呟きました。やや怖がりなアトでしたが、アトは黒魔術士。この世界から、命を狙われる身です。この国が倒れれば、方針が変われば、生きやすくなることは分かっているはずです。

 メイは、ただただ静かに聴いていました。アトより身体は小さいけれども、どこか大人びた様子の彼は、不思議な雰囲気を漂わせていました。

 ヤイは改めて話を聞いて、その重要性を考えているようです。

「サノイ皇子に聞きたい」

「サノでよい。今は皇子でもない……ただの、同志だ」

ヤイがサノの方を見て、声を掛けました。

「では、サノ。ラナとリオに恨みはないの? ふたりのせいで、キミは国を追われたも同然じゃないか」

その通りでした。ラナと僕が居なければ、今頃、世界はここまで酷いものになっては居なかったかもしれないのです。サノのご両親の治めていた「クライアント」は、雪国ゆえに厳しい環境でありながらも、国民性は豊かだったのです。「フロート」とは違い、国王陛下自らが田畑を耕し、国民たちとの距離を縮めていました。その為「フロート」が攻め入るようになってからも、兵士でない民間人さえも、積極的に軍兵に力を貸し、一致団結していました。


ラナも当時、そんな「クライアント」を見て言っていました。


「こんな国もあるんだな。これこそがきっと、国というものなんだ」


 今思えば、それがきっかけだったのかもしれません。ラナは「クライアント」に出会ってから、「レジスタンス」を立ち上げることを視野にいれ、脱隊する機会をずっとうかがっていたのかもしれません。


「恨んでなどいない」

サノは、美しい容姿の黒髪黒瞳を光らせながら、後を続けました。

「確かに、ふたりの力で私は国も全て失った。だが……代わりに、自由を得た」

「自由?」

「私は狭い世界しか知らなかった。だが、ふたりに出会い、レジスタンスに加わり旅をすることで、多くの実情を知ることが出来た。また、このままでは世界は滅びると予見することが出来た」

「それが、自由だって?」

「そうだ」

ヤイは目を細めました。そして、腕組みをします。

「今、フロートを倒さねば、世界はやがて今より壊れることは目に見えている」

「そうだね」

メイが口を開いた。

「だけど、倒せるの? この人数で」

確かに、メイの言うとおり人数が少なすぎる。サノ、ヤイ、アト、メイ、そして僕。今はこれだけしか居ない。最も力を持っていたリーダー「ラナ」は、どうなったのか定かでは……。

「!?」

僕は、思わずハっとしました。そうです、ラナです。勿論、ルカのことも気がかりですが、ふたりは一体どうなったのか。

「ラナとルカは……!?」

「セスタへ着いた時には、もう、遅かった。ふたりの姿はなく、抉れた地面と大破した家屋が幾つか……魔術の匂いが残っていた。レイアスに連れて行かれたのは、間違いない」

「生死は……?」

僕は固唾を呑んで次の言葉を待ちました。

「遺体は無かった」

「そう、ですか」

僕はそれだけでもほっとしました。しかし、もし跡形も残らないような状態で魔術を受けたのだとしたら……そう思うと、ゾッとしました。ですが、あの国王のことです。きっとラナを、隠れて暗殺なんてことはしないでしょう。今では、レジスタンス「アース」の名前は、そこそこに世界に広まっています。また、そのリーダーが「緑目のラナン」ということも、小さな村や町ではまだ浸透していないようですが、大きな街や、城下町などでは、間違いなく行き届いていることでしょう。きっと、殺すのならば見せしめに利用されることでしょう。


 フロートに反旗を翻すとどうなるのか……という、見せしめ。


「三日、遅くて一週間というのは、処刑執行日のことですか……サノ」

「あぁ」

サノは真っ直ぐな目で僕を見つめました。僕たちはまずは、ラナが居るであろう、フロート城を目指す必要がありました。馬があれば、何時間もすれば着く距離に居るのですが、アトとメイに馬術の経験があるようには思えません。僕とサノの馬に乗せれば、それで済むかもしれませんが、ただ問題なのは、魔術を扱えるアトは別として、メイという子どもを連れて行くべきかということでした。

「リオ。そのふたりも連れて行く気か?」

サノは、アトとメイの顔を交互に見てから、様子を窺い、そして最後に僕を見ました。ヤイは既に、ラナとルカの奪還の頭数に入っているようです。

「アトは、黒魔術士です。放っては置けません。メイは……」

「僕は、白魔術士だよ」

メイの言葉に、サノ以外のメンバーは少なからず驚きました。

「手伝えることがあるのなら、手伝う」

サノはその言葉を聴くと、ふたりを連れていく方向で、作戦を練るつもりのようです。

「そちらの、ヤイという者も……白魔術士だったな」

「うん、そうだよ。そういうキミは、黒魔術士かい?」

黒髪に黒目と来たら、大概は黒魔術士なのです。九割方、それで当たります。ですが、サノはもっと特殊な魔術士でした。

「私は、神子魔術士だ」

「神子?」

要するに、白も黒も扱える、レイアスと同じ力を持つ選ばれし魔術士ということです。頭もよく、戦場経験豊富な軍師。そして神子魔術士とくれば、ラバース兵士が束になってかかっても、なかなか落とせないのは頷けます。サノの強さは、尋常ではありませんでした。

「神子? それはまた、こころ強いね」

「……」

サノはその言葉を皮肉と受け取ったようでした。その力がありながら、セスタの街を通りながらも、ラナを救えていないからでしょう。

「ルカというのは……もしや、ルカナという名前ではなかったか?」

「え……そうですが、どうしてです? サノの、お知り合いですか?」

少し考え込むような感じで、眉間に皺を寄せました。気難しそうな顔をしながら、サノの頭の中にはある人物の姿が浮かんでいるようです。

「ブロンドの髪に青眼とはよく居る容姿だが、もしかするとそのルカは、フロートの唯一の後継者、第一皇女かもしれないな」

「ルカが、皇女さま!?」

声をあげたのは、アトでした。声さえあげなかったものの、僕も内心驚きはしました。ただ、確かにルカの立ち振る舞いや言葉使いは、ただの村人とは異なるものを感じてはいました。どこぞやの貴族かとは思いましたが、まさか、倒そうとしている国の皇女だったとは……そうなると、ルカが殺される心配はないと、どこかでほっとしました。案じるのは、ラナの身だけでよくなったのです。

「そうだ、そうだよきっと! ルカ、綺麗だったし。きっと、皇女さまなんだ!」

「だけど、なんで皇女さまがあんな村に居たんだろうね?」

ヤイは不思議そうに言葉を発しました。確かに、護衛も無しでひとり何をしていたのでしょう。

「……自由を、求めていたのかもしれないな」

「自由……ですか」


皇子と皇女。


サノにしか分からない、特別な心情があるのかもしれません。


「リオ、作戦を練ろう。ルカが皇女である可能性は高いが、確実ではない」

「そうですね。念のため、ルカも処刑されるとした場合も、考えなくてはいけませんね」

僕とサノは、顔を見合わせ、目と目が合うと頷きました。

「ラナを奪還する」

「ヤイ、アト、メイは寝ていてください。ある程度は、サノと僕でまとめます。早朝にはここを発ち、フロートの城下町まで行きますよ」

「分かった。でも、そうなると馬に乗るんだろう? 手配はいいのかい?」

確かに、馬が必要でした。この時間に、馬を貸してくださるところなんて、無いかもしれませんが、一軒、一軒当たらなければ、とても間に合いません。

「僕が探すよ。お子さまふたりは、眠るといい」

「えっ、僕たちも何かするよ!」

メイもアトの言葉に頷いていました。しかし、このような夜更けに子どもを出歩かせる訳にもいきません。ただ、アトはともかく、メイまで危険を冒してまで力になってくださるというのは、気持ちだけでもありがたいものでした。

「お気持ちだけで、充分です。おふたりは、明日に備えて眠ってください。乗馬経験は無いでしょう? 飛ばしますから、結構疲れますよ」

「……分かった」

「うん」

そして、ふたりは床に横になるのを見て、僕はふたりにそっと掛け布団をかけてあげました。疲れていたのでしょう。ふたりはすぐに、すやすやと眠りにつきました。それを見届けてから、ヤイはこの部屋を静かに後にし、僕とサノはふたりを起こさないように、小声で作戦を練りはじめました。




「起きろ。謁見の間に連れて行く」

ガチャリと鎖が外され、重々しくギギっという音を立てながら鉄格子は開かれた。男の傷は癒されることもなく、しかし、血はすでに止まっているようで、ボロボロの衣類は赤黒く染まっている。武器を持ち込んでいないかチェックもしたが、どうやら所持していたのはダガーに大剣、銃のみだったようだ。全て、押収済み。この男は最早丸腰だ。脅威ではない。

「……」

「いつまで寝ているつもりだ」

無理やり身体を起こさせると、男は目を閉じたまま、逆らうことも無く、後ろ手を縛られながら歩き始めた。大男であるレイアスの「ジーマ」が、華奢な男の腕をロープで縛っているそれを引き先導し、逃げられないよう俺はそのすぐ後ろを歩いていた。

「レイザ、お手柄だったな」

ジーマが俺に声を掛けてきた。図太い声をしている。

「あぁ、隊長のな。こんな奴、所詮レイアスの敵じゃないのさ」

「そうだな」

「……」

男、ラナンは黙っていた。流石に傷は痛むのか、足を引きずりどこかだるそうに歩いている。

「さっさと歩け。陛下がお待ちなんだぞ」

ジーマは躊躇うことなく、ロープを引っ張った。すると、ラナンは体勢を一瞬崩すも、すぐに体勢を立て直し、ゆっくりと歩きはじめた。抵抗する余力もないのか、静かなものだ。これなら、見張り役の俺なんて、必要ないのではないかとさえ思える。

(まぁ、念には念をな……)

レイアスの敵ではなかったにせよ、ラバースがこれまで歯が立たなかったことも、また事実。それなりの力は持ち合わせているんだ。ここで逃げられていては、話にならないどころか、洒落にならない。


 トントン……。


 扉をノックすると、俺は中で待っている主に向かって声を発した。

「レイザです。ラナンを連れて参りました」

「入れ」

中からは、低く蠢くような声が響いた。聞きなれた声だ。

「はっ」

そして扉が開かれると、俺とジーマはラナンを連れて、中へと入っていった。中には、声の主であるザレス国王陛下に、右隣には俺たちの隊長、ジンレート様。そして、陛下の左隣には昨晩牢屋にてすれ違った男、カガリが控えていた。

「クランツェを通じて、お前の生温いやり方は、ラバース時代から聞いていた」

「……」

「お前も、もう終わりだ。そうだな……明日には、とでも言いたいところだが、世間にはレジスタンスが他にもあると報告を受けている。その者共や今後のことを考えると、お前は見せしめとして処刑せねばならぬ」

陛下は何か、面白いものを見ているかのような不敵な笑みを浮かべながらも、ラナンに近づこうとはせず、赤色の高貴な椅子に腰をどっかりと下ろしながら、一考していた。髪の毛は白髪が少し混じった濃い茶色。短く切りそろえ、顎髭も短く生やしている。

「そう思わないか? ジンレート」

「陛下の仰る通り」

「……っ」

不意に、ラナンが笑った。ついに壊れたかと、俺は黙って見ていた。

「何が可笑しい?」

陛下は、後ろ手を縛られ跪かされているラナンを敵とは思っていないようだ。どんな戯言を抜かすのか、まるで楽しみにしている様子にすら見える。

「……愚かだな。見せしめ? したければ、してみろ。お前たちも……道連れだ」

「ほぅ……どのようにだ? 何も出来ぬクズが」

ジンレート様が歩み寄り、面を上げたラナンの顔を蹴り飛ばした。しかし、ラナンは直ぐに視線を陛下へと向け、ジンレート様はまるで眼中に無いかのような素振りを見せた。ソレに対して、隊長は頭に来たのだろう。

「陛下、即日処刑でも充分ではないのですか?」

「処刑執行は一週間後だ。フロート城下町大広場にて、処刑台を作ってやる」

「それはどうも」

ラナンは怯えるどころか、目の輝きを失っては居なかった。

「それまで、牢に閉じ込めておけ」

「はい」

ジーマはロープを引くと、ラナンを立たせた。そして一礼し、この場を後にしようとした。その後に続いて、俺も再び牢屋まで戻ろうとする。

「あぁ、そうだ」

すでに後ろを向いているラナンに向かって、陛下は声を掛けた。

「私の大切なひとり娘を拉致していたそうだな。罪状が増えたんだ。死は免れんぞ」

「……ルカは?」

「お前に知らせるとでも思ったか?」

「……」

ラナンは、初めて表情を変えた。どこか複雑そうな表情だ。心配、罪悪感が入り混じっている。

「行くぞ」

「……」

「牢の中で死ぬなよ?」

クスクスと不気味な笑みを浮かべる陛下を尻目に、ラナンは牢屋へと戻っていった。




「号外! 号外!」

「レジスタンス、リーダーが処刑だってよ!」

「一週間後、大広場にて?」

「皇女様の誘拐も企てていたんだって!?」

「なんてことを……」

「大広場、お前行くか?」

「怖いね」




 ザレス国王の計画は、すぐに城下町を中心に地方にまで広まりました。サノの読みどおり、やはり、処刑執行日は一週間後となったようです。それまでに、城下町に見物客を集めることが目的なのでしょう。また、処刑台を築くまでにも時間はかかります。

「サノ」

「ザレスの好きにはさせない」

「えぇ」

僕たちは、ラナンの罪状について書かれたビラを持ちながら、フロート城を見上げていました。

「レジスタンスのリーダー、ラナン。我が国フロートに刃向かい数々の兵士を殺してきた。そして唯一の皇女の誘拐。その罪は許しがたきものであり、死刑に処するべき……何これ、嘘っぱちじゃないか!」

アトは、ビラを破り捨てると僕に怒りの目を向けました。

「ラナは、誰も殺して来ては居ないんでしょう!? それにルカだって……誘拐したんじゃない!」

「えぇ、そうです。ですが、こうした方が、国王にとっては都合がいいんですよ」

「そうだな。ラナンをどこまでも悪人とすれば、処刑といってもフロートの株は上がるのみ」

サノはその罪状を破り捨てることなく、綺麗に畳むとズボンのポケットにしまいました。紙というものも、なかなかの高級品。簡単には無駄に出来ないのです。

「安心しろ。ラナンは必ず助け出す」

「殺させたりなんかしませんよ。アト」

アトも、グッと拳に力をこめると力強く頷き、僕たちの目を見上げました。

「僕はラナに何度も助けてもらった。今度は、僕たちの番だよね!」

「はい」

僕は優しく微笑みました。




 きっと、大丈夫。




 ラナは今、ここには居ない。




 けれどもラナの「信念」は、此処にある。




 決戦のときは、近い。



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