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こころ許せる仲間と共に

 魔術士を相手にする。


 それは、武器を持たない人間が、魔獣にでも喧嘩を売るようなもの。


 それも……たったひとりで「レイアス」という最強部隊を相手にするなんて。


 完全に、無謀でした。


 どれだけ「最強神話」があろうとも、無謀は無謀。




 ラナとルカが、隣街の「ティラ」へ来ることは……。




 いつまで待ってみても、ありませんでした。




「捕まったのかな……」

アトが、ぽつりと呟きました。僕はすぐさま反論しようとしましたが、僕の脳裏にもその言葉が何度も過ぎっていた為、否定することは嘘でも出来ませんでした。日も暮れてしまい、宿も見つけず、ラナとルカ以外は無事に「セスタ」の村を出て「ティラ」の街へ辿り着きました。道中も、レイアス兵に出くわす危険があった為、細心の注意を払ってここまで逃げて来ましたが、レイアス兵とは「セスタ」ですれ違ったきり、森には配置されていませんでした。個人行動をしないとは聞いていたのですが、それは本当のようです。

 アトの黒い髪が、暗闇で見えなくなるほど、日はもう沈み切っていました。日中に抜け出してきたのですから、何事もなければ、とっくに此処に辿り着けているはずです。ヤイもメイも、アトも無事に着いているのですから。自ずと答えは見えてきます。


 ラナとルカに、何かあったのだと……。


「ヤイ、僕は……」

「リオ、止めておけ。無駄だな」

ヤイに僕は、ラナの元へ戻ると告げようとしましたが、それを察知してか、言葉を遮り制止しました。

「……やはり、僕の采配ミスです」

レイアスに、ラナひとりで勝てる訳がありませんでした。しかも、心奪われているルカが一緒。気が散っている可能性もありました。

流石に戦いとなれば、ラナは強い。けれども、言葉は悪いですが、ルカが足を引っ張っている可能性は否めません。


 僕はラナを信じている。


 ただ、過信しすぎていたんだ。


「どうするんだい? これから……まず、夜も更けてきた。お子様ふたりを連れて野宿は危険だろう? リーダーを欠いているんだ」

ひとつ縛りにしている髪を解くと、ヤイは僕の方に向かって歩み寄った。茶色の一般的な髪が風に揺れる。僕たちのこころを、表しているようだと感じました。ひとつになっていた繋がりが、リーダー「ラナ」を欠き、バラバラになりはじめ、揺れ動きはじめている。そう、感じて仕方がありませんでした。

(情けない……)

これでもラナが居なかった頃、ラナにまだ出会う前の「ラバース兵士」であった頃は、ある程度の年月を僕が「リーダー」として何十というもの人数の部下を連れて事に当たっていたというのに、ラナの力……そして、ラナの「セルヴィア」に近い、神のような容姿に魅入ってからは、ラナに頼りっぱなしの人生になっていたのです。剣の腕には自信はありましたが、ラナのような人望を持ち合わせているとは思っていません。このままでは、ラナは殺され、レジスタンス「アース」はここで崩壊。最悪のシナリオです。僕は、次なる行動に移すことも、思考回路が止まりつつあり、動けずにいました。

「三日……長くて、一週間後だ」

そのときです。僕たちの背後にある山道から、僕より低めで落ち着いた、テノール声が響きました。アトは咄嗟にヤイの後ろに隠れましたが、僕には、この声の持ち主を、見ずに判別することが容易に出来ました。

「サノ……」

「久しいな、リオ」

短い黒髪に前髪は右分け。落ち着いた様子で、僕と同じくらいの背丈の男、サノイ……通称「サノ」は、まるで足音ひとつ立てずに僕の背後を取っていました。

「簡単に背後を取らせるとは、よほど切羽詰っているな」

「……えぇ」

「リオ、彼は?」

「……敵じゃ、ないの?」

僕はつい、こころ許せる存在の思いがけない出現に、他の仲間のことをすっかり忘れてしまっていました。僕は我に返り、落ち着きを取り戻すと、ひとつ深呼吸をしました。そして、サノの顔を見ながら、ヤイとアト、そしてメイの生き残った仲間に、サノのことを紹介しました。

「彼が、レラノイルで合流しようとしていた仲間のひとり、サノです」

「……会えないのではなかったのかい?」

ヤイが怪訝そうな顔をして見せました。それは確かに。サノは、オズノ大陸という、こことは別の大陸に居てもらっていたはずでした。僕たちラナ隊とは別に、もうひとつの隊を作ってもらうために、違う大陸で動いていてもらったのです。お互いの現状は、「フア」という青いサノの愛鳥を使って、手紙のやり取りをすることで知らせていました。

「確かに……どうやってここへ? セスタの村を通って来たのですか? ラナは、ルカは……!?」

「リオ、落ち着け。質問はひとつずつ答える。まずは、宿を探そう。そのような子どもが一緒では、彼の言うとおり、危険だろう? この辺りに野獣は少ないようだが、いつ賊が現れるかも分からない」

僕は再び、はっとしました。いつからでしょう。こんなにも、ひとに頼りっぱなしになってしまうようになったなんて……自分に嫌気が差し、うすら笑いを浮かべました。

「自己嫌悪をするな。疲れているんだろう。それだけだ」

サノは僕の肩に、ポンっと手を置きました。

「色々、心配かけたな。これから暫くは、私も一緒だ」

「そうですね。ありがとうございます」

僕はふーっと、重い息を深く吐き、新しい空気を身体に取り込みました。

「……さて、ヤイとサノが言うように、とにかく宿を探しましょうか」


 僕たちは、この街にある宿屋を目指して歩きました。幸い、難なく宿屋は見つけることが出来ました。大部屋のある部屋に、雑魚寝をするという一番安い宿を運よく見つけられたので、お金は浮かせられます。


 扉を閉めると、僕たちはサノしか知らない情報を得る為に、サノを囲みました。


「オズノも、酷い状況だった」

「そうですか……」

フロートの手は、他大陸へも侵攻していることは、知っていました。サノの国を滅ぼしたのもまた、フロートでした。サノは雪国「クライアント」王国の、第三皇子でした。その、滅ぼした憎むべき相手は、ほかでもない、「ラナ」と「僕」でした。




 僕たちがラバース傭兵だったとき、ラナに「クライアントを落城させよ」という命令が下ったのです。そのときの最下位Dクラスの隊長はラナであり、副隊長が僕でした。

サノは敵国「クライアント」の軍師でありかつ、皇子という身分。天才的な武術に加え、魔術を扱う戦士でした。それまでフロートは、幾度となくもクライアントに兵士を送り込んでいました。けれども、サノの前ではどれだけの兵士を送り込んだところで、歯が立たなかったのです。そこで、「ラバース内で最も優秀なのではないか」と言われた、最下位クラスの「ラナ」に、遂に命令が下ったのです。ラナは、フロート、そしてラバースの思惑通り、クライアントを落城させてしまいました。

 そこで自ら命を絶とうとしたサノを救ったのもまた、ラナでした。ラナは、サノに「生きる」よう説得し、クライアントの国王、皇后両陛下の命も、奪うことはありませんでした。その頃からすでに、「殺さず」のラナの方針は固まっていたのです。しかし、普通では決してそのようなことは、上には通らないことです。敵国の皇子、しかも軍師の命を助けるなんて馬鹿げたこと、容易には出来ません。

 ラナは、「クライアント皇子並びに両陛下を処刑するというならば、自分はラバースを去る」と、ラバース総監「クランツェ」に言い放ちました。クランツェも悩んだことでしょうが、ラナが去れば、ラナを慕うものすべてがラバースから去り、そしてラナがいつしか、フロートに敵対するようなことが起きたとき、脅威になると考え、ラナの要求を呑んだのです。




 ラナひとりだけに、それだけの価値がありました。


 これが、今から五年前の話。




 ラナはその三年後に、フロートへの不満を露わにし、ラバースを脱隊すると共に、ラナと共に隊を離れた僕、そして命を救われ旅に出ていたサノの三人で、レジスタンス「アース」を立ち上げたのです。それからというもの、二年間。僕たちは他に仲間を集める訳でもなく、ラバースからの刺客であるレナや他兵士を撃退しながら、旅をし、世界を回っていました。


 ただ単に、能天気に旅をしていた訳ではありません。


 ラナは、現状を……今のこの「ディヴァイン」の在り方を、見ておきたかったのです。


「僕に、隊を率いてほしいという話は……」

ヤイです。そう、ラナと共にヤイにだけは話していました。この旅の目的を……。そして、ヤイには別働隊を新たに作って貰おうと考えていたのです。白魔術士であり、医者でもあるヤイ。そして、大人の視線を持つ彼になら、新たな勢力を作れると期待したのです。

「別働隊?」

アトが首を傾げます。僕はサノの顔を見て確認を取ってから、これまでの経緯を、ヤイを含めた残りの小さな仲間たちにも話しはじめました。




 誰のせいでもない。




 すべては、ときの流れのままに。




 時代はもう、すぐそこまでやって来ている。




 新たな時代が……目の前に。




 風と共に、運ばれてくる。



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