はた迷惑なプレゼント(前編)
明日はどうなる!?パート2前編の再投稿版です。
「おはようございます!リナリア様!!これよければ使ってください!!!」
「おはよう、朝早いのに元気ですね。遠慮なく使わせてもらいますね」
夜が明け空が白みはじめた頃、日課にしている剣の鍛練に区切りをつけると近くで見ていた少女たちが挨拶と共にタオルを渡してくれた。
ありがとう、という言葉と共にタオルを受けとると彼女たちは「きゃぁ」という嬌声を上げ顔を赤らめた。
「リナリア様、最近特に朝早くから鍛練されているんですね!!授業が始まるまでかなり時間がありますのに………それで、もし、よろしけば朝食をご一緒してもよろしいですか?」
「………ごめんね、鍛練のあとは生活指導のシリル先生に頼まれて朝の見回りとかの手伝いをしてるのよ。最近は物騒だから少しでも力になれたらと思って……」
途中、言葉をつまらせながらも勇気を振り絞ったのだろう彼女たちに非常に申し訳ない気持ちになりながら「また落ち着いたら朝食ご一緒しましょうね」と声をかけてその場を後にした。
背を向けた方向から「キャー!!」という悲鳴が聞こえたが振り返りはしない。
ポケットから取り出した懐中時計を開くと溜め息をつく。
ヤバイ………予想外に遅くなった
――――――― 急いで着替えを済ましてやってきた部屋の前、走ってきたため軽く乱れた服装を整え目の前の扉をノックし、返事が聞こえる前に素早く体を滑り込ませた。
「遅い」
返ってきたのは不機嫌な声を物ともせず、部屋の中をざっと確認した私は失望の溜め息をもらす。
「リナ、遅いって言ってるだろ。なんだそのあからさまな溜め息は」
「いえ、私の気のせいでなければ今日は大事な授業がある日だと伺っていたはずですが、何故レナード様は部屋着のままソファに座ってくつろいでおられるのかと思いまして」
そう、目の前のソファに座っているレナードは制服に着替えることもなく、ラフな格好で本を読んでいた。
しかも、明らかに部屋から出た形跡がない。
……ということは
「……レナード様、つかぬことをお聞きしますが今朝は何を召し上がりましたか?」
「紅茶」
「それは食事ではありません!!」
ホントこの男は困ったことに手が掛かる!
声をかけなければ着替えもしない、食事も取らない、1日中自分の部屋から出ようとしない。
これが魔導科のトップ『白金の魔導士』とは本当に信じられない!!
「……リナが来るのが遅いからだ」
はい、出ました責任転嫁!!
眉間にシワを寄せ不機嫌そうな声を出しても言ってることはまるっきり子どもの言い分。
突然の持ち場変更の末、この男の部屋付きに なってはや数日。
美術品かと見間違うほどの美貌をもつ男はその外見を見事に裏切る性格をしている。
慣れてきたとはいえ、これが毎日ともなれば精神的疲労はかなりのものだ。
「……いつもの時間より少し遅れたのは申し訳ございません。ですが私はレナード様専属になったわけではありません。あくまで『仮』のメイドでございますので、他にもやらねばならない仕事があるのです。その辺りをご理解くださいませ。」
実際はレナードの部屋付きメイド以外の仕事はしていないけどこうでも言わないとこの男は納得しない。
私だって自分のための時間は欲しい。剣の鍛練だって疎かにできないしメイドの仕事が終わってからすぐに騎士科の授業に出られるように準備もしなくてはいけない。
いろんな事情があるっていうのにこの男は………
「だったら私の専属になればいい。マーサには私から言っておく。」
なんて自分勝手な男なんだ!!
これ以上不毛な話をしている時間もない。
あらかじめここに来る前にキッチンに寄って簡単なサンドイッチを作っていたのでそれらをソファの前のテーブルに置き、一緒に持ってきていた温かいミルクティーをカップに注いだ。
私からの無言の圧力を感じたのか目の前のレナードはおとなしくテーブルの上の食事に手を伸ばし始めた。
ちゃんとミルクティーを飲んだのを確認し、部屋の中を簡単に掃除する。
「ご馳走さま」
いつの間にか食べ終わっていたレナードは満足そうに目を細めてこちらを見つめていた。
何気に美食家なレナードの機嫌良さそうな雰囲気から味は合格点をもらえたみたいだ。
ほっと安堵の息をつき、食べ終わった後の片付けをしていると目の前に綺麗な赤色の石がはまったネックレスが差し出された。
「レナード様、これは?」
「これ新しい部屋の鍵。前の鍵だと色々問題あるから替えた。」
「……お預かりしておきます」
新しい鍵。
……噂で前任の部屋付きメイドたちが合鍵を使って部屋の中に侵入し、部屋の主に色仕掛けをしたとか襲いかかったとかなんとか。
いや、私は何も知らない知りなくもない。
あえていうなら肉食系女子こわっ!!
後編に続きます♪