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苦手なアイツはご主人様~

ご要望があったので連載させることにしました。感想をくださった方たちありがとうございます。

※1話は短編で投稿した『明日はどうなる!?苦手なアイツはご主人様~とお同じ内容になっています。

「そんな話聞いてません!!私は普通にキッチンメイドとして……」


「リナ、貴女に選択権はありません。決定権は使用人筆頭である私がもっているのです、文句を言わず早く新しい持ち場にお行きなさい!!」


 それ以上は話を聞かないとばかりに足早に去っていく上司であるマーサさん。


 出来上がったばかりのクッキーの甘い香り漂うキッチンで1人取り残された私、『リナリア・クレーゼント』は呆然と立ち尽くすしかない。





 ……どうしてこうなった!!!!!!!!






 そもそものきっかけはお金にだらしない父親がやらかした事件だった。



 貴族階級に属しながらも父親であるクレーゼント伯爵は頭が悪かった。


 いかにも怪しげな格好をした男を『希代の魔術師だ!!』と言っては豪勢にもてなし、美しいと評判だった庭の一角を潰して研究所まで作ってしまった。


 それだけでは終わらない、世界各国から珍しいといわれる品物を大枚払って取り寄せては『魔術師』に惜しみ無く捧げる。


 それらは全部『研究費用』という名のもとに消費され跡形も無くなった。


 ……そう、魔術師と呼ばれた男と共に全部消えてしまった。


 魔法を使った事故でとかそんなものではない、ただ夜逃げしただけ。研究に使うことなくわずかばかり残っていた金銀を持って 。


 始めは落ち込んでいた父。

 ザマアミロ、ほら見たことか!!と思っていたのも束の間、父は新たな拠り所を見つけた。



 自称『宵闇の魔女』



 黒目黒髪をもつそれはそれは凛々しい容姿をした……


『男』だった……




 こりゃダメだ!!!!!


 父を除く母、私、弟の心が1つになった瞬間だった。




 それからの展開は早かった。



 貴族のお嬢様育ちの母はいつの間にか当主である夫の代わりに辣腕をふるい伯爵家の醜聞をなかったことにした。


 執務室で髪を振り乱しながら一心不乱にペンを走らせるその足元にはヒールで踏みつけられた父の姿が……



 ……自宅の庭にある東屋で紅茶の入ったティーカップを傾けながらウフフと穏やかに微笑んでいた母はもういない…(涙)



 私は私で伯爵家の傾いた家計を何とかするべく、国内でも有名なラングロンド学園へと入学した。



 狙いは玉の輿!!と言いたいとこだがあいにくと父親そっくりの色彩を持った私は灰色の髪に赤い瞳。せめて母親譲りの弟みたいに金髪に青い瞳がよかった!!



なんて嘆いてみせてもどうにかなるもんでもなくひたすら座学と鍛練に励んだ。


なんとかギリで入学した学園は広く才能溢れる若者たちを集めたエリート養成所だ。


身体を動かすこと、つまりは剣技などの武道系は優秀な私だが何故か頭の出来はあまりよくなくて座学では赤点スレスレ…


もしかしなくてもやっぱ馬鹿父に似てしまったのだろうか???


よりにもよって悪いところばかり…(涙)


それでもこの学園を優秀な成績で卒業できれば城仕えの騎士としてエリート街道まっしぐら!!


そうすれば伯爵家の家計の足しにもなるし城仕えという名誉もついてくる。


学園に入学して早2年。

座学がダメダメな分を飛び抜けて優秀な実技でカバーし続けた私は騎士科のトップ学生になり『花冠の聖騎士』と呼ばれるようになった。


順調な学生生活、騎士科の仲間たちは男も女も関係なく仲が良く皆が私を慕ってくれている。


そんなある日転機が訪れた。


「えっ、リオン(弟)がラングロンド学園に入学!?」


「そうなのよぉ、なんか貴女を目指したいって言っててね。でも体力的に騎士科は無理みたいだから文官コースを受けるみたい」


久し振りに帰った我が家で戻った早々執務室に呼ばれた私を待っていたのは母からの意外な事実。


ちなみに父はというと母の横で紅茶のおかわりをカップに注いでいる。



いつの間に執事になった?!?!?!?



それはそうと気にかける優先事項は母の発言だ。



私の時でも入学金が足りなくて奨学金制度を利用してなんとかなったのにリオンまで入学……



いや、別に入学がダメっていうのではなくてなにせ何せ先立つ物が……


そんな不安な胸のうちを察している母は溜め息を吐きつつ机の上に開いたままだった本を閉じた。


「貴女は本当に無口ね。その分考えていることがすぐに顔に出てるけど、そんなことではこの先やっていけないわよ」



「私は本音を隠して腹芸をする文官ではなく騎士ですからこのままで充分です。」


そんなこんなで話は私の性格の話へとなりリオンの話はうやむやに……そしてそのまま学園の寮へと戻った私はベッドに潜り込み頭を抱えた。


マジでどうするんだ!!


悩む私は翌日から現実逃避に走った。


花冠の聖騎士という肩書きを使って調理実習室を占拠した。


実家に居たときは貧乏なせいで僅かに居る使用人の手伝いに駆り出され炊事洗濯、縫い物も行い食料調達のために狩りまでしていた。


今の私があるのはあの頃の殺伐とした生活のお陰かも…


とりあえず今何をしているのかというと実習室に材料を持ち込みさまざまなお菓子を作っているのだ。


買えばお高いお菓子だって自分が作れば材料費だけ。しかも自慢じゃないがそこらのお店のお菓子よりも美味しい!!


一度、作り過ぎたクッキーを野外訓練後に配ったところ大好評で『どこに売ってるんだ!?

と問い詰められて大変だったくらいだ。



もちろん、自分が作ったなんて言わないですよ。

だって一応私ってば伯爵令嬢ですから。


みんなには実家のメイドが作ったということにして事なきを得ました。


「クッキー、ケーキ、マカロン、マドレーヌ……たくさん作ったわね。よしっ、これで当分の食料はできたわ!!やっぱストレスには甘い物よね!!」


なんて言いつつウキウキとバスケットの中に出来上がったばかりのお菓子を詰め込んでいく。


そう!!ストレスには甘い物!!


剣を振るって汗をたくさん流すのもいいけれど、それだとやっぱりお腹が減る。


運動してたくさん食べる!!これがやっぱストレス発散にはいいのよね。



若干、顔を青くさせつつ快く(?)実習室の鍵を貸してくれたレイモンド先生用に可愛らしくラッピングしたクッキーをあげよう。


そんなことを考えつつ鼻歌まじりにクッキーを包んでいた私はふと視線を感じて後ろのドアを振り返る。



「……リナリア・クレーゼント、貴女は何をしているの?」



……見・つ・か・っ・た~!!!!!!!!


「あの、シリル先生、これはその……」


よりにもよって生活指導担当であるシリル先生に見つかるとは……


仕方なくしどろもどろになりながらも実習室を占拠してお菓子を作っていた理由を説明した私は、黙って話を聞いていたシリル先生の一挙一動に冷や汗をかく。



髪をアップにした上品な貴婦人で小柄ながらも威圧感が半端ないシリル先生は、その容姿を裏切るかのように格闘技に秀でていて頭もいい。

まぁ強者だらけの学園の生活指導をするだけの実力はある。


「話はわかりました、ご実家の事情も少なからず聞いておりましたが、そこまで困窮されていたとは…」



「そうなんです!!この学園に入学したいっていう弟のために何かしてやりたいんですが私はまだ学生の身。力になってやることもままならず、ストレスばかりが溜まっていって……」



「だからと言ってお菓子を馬鹿食いするのはいただけません。……そこで1つ貴女に提案があります」




それから展開は早かった。

もちろん、私用で調理実習室を占拠していた私に拒否権はなくシリル先生の提案に乗るほか選択肢はなかった。



先生の提案とは学園内の寮におけるメイドの仕事をすることだった。



何故か高給なはずの寮専属の使用人なのだが人材が不足していて仲が良いメイド長に相談されていたらしい。



私としても実家でやってた仕事だから別に苦ではないのだが色々と問題があった。



まずは、働き先が男子寮だということ。

私、一応妙齢の令嬢なんですけど……


もう1つ、その男子寮がよりにもよって魔導科の生徒専用だということ。



……ラングロンド学園は大きくわけて騎士科と魔導科がある。あとは少数ながらメイド科、文官コースとあるがそちらはそこまで有名ではない。



メイドと文官の養成学校は他にも王都にたくさん点在しているし、学園としても魔導科と騎士科の2枚看板に力を注ぎたいのだろう。



だからだろうか、魔導科・騎士科共に昔から仲が悪い。まぁ畑違いの分野を目指す者たちだからその関係は余計に険悪になるのだろう。



それに加えて騎士科トップである私は家庭の事情もあって『魔』とつくものが大嫌いだった。そういうこともあって今代の騎士科・魔導科はこれまでになく仲が悪い。



大体、今の魔導科のトップ『白金の魔導士』が気に入らない!!


白金の魔導士こと『レナード・ハルディウス』は私が求めてやまない金髪碧眼で美術品かと見間違うほど端整な顔立ち、姿をした男だ。



家名は聞いたことがないので多分、下級貴族かなんかだとは思うがなにせ何をやらせても様になるのが気に入らない!!




成績も優秀で魔導士として学園に入学して2年しか経っていないのにすでに王宮から働かないかとの打診も来ているらしい。




羨ましいとは思わない!!ただ悔しいだけだ!!!!!!!(涙)



しかも私のほうが一方的にライバル視していて向こうはまったくそんな気がないのが余計に腹立つ!!



そんな険悪な間柄なのに、まさか魔導科生徒がはびこる男子寮にメイドとして働くなんて!!……とは言いつつも拒否権なんて私にはない。



大体、自分の住んでる寮から歩いてすぐだし支払われる給金だって高額。騎士科と魔導科の寮は別になっているから顔見知りに会う心配もない。これはやるしかないでしょ!!!




というわけで翌日、魔導科専用の男子寮へと足を運ぶことになった私はメイド長を名乗るマーサさんの案内のもと面接をする部屋へと連れてこられた。



中には6人ほどの女の子がいて、皆がメイド科の制服をまとっている。どうやら彼女たちは学園の実習を兼ねて寮での仕事を行うみたいだ。


「――――― ということで貴女方には本日から寮の仕事をしてもらうわけですが、学園での授業もあることですので限られた時間内にメイドとしての仕事を行ってもらいます。まずは担当してもらう部屋割りですが……」


「マーサさん、私は部屋付のメイドではなくてキッチンのほうの仕事にしたいのですが!!」



魔導士の部屋付なんて絶対に嫌!!とばかりに力強く発言した私に、マーサさんはおろか他のメイドたちも戸惑ったような表情を浮かべた。



「……本当にリナさんはキッチンメイドがいいの?あそこは仕事がキツいところですし、部屋付きメイドのほうが色々とよろしいのでは?」



「いえ、私はキッチンに行きます。部屋付きは他の方にしてもらってください」



断固として譲る気配を見せない私に諦めたのかマーサさんは他のメイドたちに担当する部屋を指示して鍵を渡した。



「それでは皆さん、メイドとしての職務をまっとうするように胸を張って頑張りなさい」


その言葉を合図にそれぞれの持ち場へと素早く移動した私たち。


さぁ、お仕事頑張ろう♪




 ―――――― そんなことで、最初は良かった。



朝早く起き、男子寮に行ってキッチンで料理人の指示に従いながら朝食の準備。

あとは授業が終わってすぐに着替えをしてまた男子寮に行って夕食の手伝いをして、最後に食べ終わった食器を洗って1日の仕事が終わる。



仕事の合間に賄いでご飯が食べられるのが嬉しいし

、なんだかんだでキッチンにいる人たちは良い人たちばかりで学生生活と仕事の両立で疲れていてもなんとか頑張ってやれている。



もちろん、仕事中は念のため素性がバレないようにと、目立つ瞳の色を誤魔化すためにメガネをかけて長い灰色の髪を三つ編みにして両サイドから垂らしている。



それだけでなんか野暮ったい感じになって、騎士科の生徒だなんて絶対にバレない。



そんな感じで割りと充実していた日々は一週間として持たずに消え失せた。



終わりを告げたのはメイド長マーサの一言。



「リナさん貴女は本日付けでキッチンメイドから部屋付きへと異動が決まりました。すぐに身支度を整えて担当する部屋へ向かいなさい。とりあえず今日は部屋の簡単な掃除だけでよろしいですから」



「……はっ!?いえ、そんな話納得できません!!私は普通にキッチンメイドとして……」


「リナ、貴女に選択権はありません。決定権は使用人筆頭である私がもっているのです、文句を言わず早く新しい持ち場にお行きなさい!!」


あまりのショックに一瞬言葉を失ったが、すぐに正気に戻り反論した私に対して、それ以上は話を聞かないとばかりに足早に去っていくマーサさん。


夕食の準備後にでもみんなと一緒に食べようと準備していた、出来上がったばかりのクッキーの甘い香り漂うキッチンでただただ呆然と立ち尽くすしかない。





……なんで私の人生ってこんな山あり谷ありなんだろう???



とりあえずやってきました、今日から担当する部屋の前に。




衝撃な配置がえの宣言のあと素早く去っていったはずのマーサさんが再びやって来て、担当する部屋の鍵を強引に握らせるとキッチンから強制的に追い出されてしまった。




ふと見下ろした視線の先には手の平に乗せられた綺麗な金色の鍵。

デザインがまた変わっていて持ち手の部分が魔導士の使う杖の形をしている。




なんか見覚えがあるなぁ…と見つめていると頭に浮かんだのは金色の鍵を取り合うメイドたちの姿。



そうだ、確か同じ時に働き始めたメイド科の生徒たちが誰が担当するかで揉めていた鍵だ。



嫌な予感が頭に浮かんだが、これも仕事だと割りきって目の前の部屋の扉をノックする。



ちょうど良いことに今日は魔導科の生徒は課外実習に行っていて帰りが遅いはず。

返事がいのはわかっているのでとりあえず「失礼します」と声をかけて部屋の中へ入ると素早くゴミ箱の中身を持ってきた袋に移して、備え付けのテーブルの上を軽くフキンで拭いた。




部屋の広さと間取りが自分の部屋と同じなのが幸いしたのかすぐに仕事が終わってしまった。

最終確認とばかりに部屋の中を見回すと年頃の男が生活しているにしては全体的に物が少ないのがよくわかる。



「……なるほど。だから他のメイドたちがこの部屋の担当になりたがったのね。これだけ物が少なければ仕事は楽だもの」



とりあえず仕事は終わったし、まだまだ勤務時間は余ってる。マーサさんのもとに一度戻ってから次の仕事の指示をもらおうかな。



最後にもう一度部屋を見回すとフト、寝室へと続く扉が少しだけ開いていることに気づいた。



基本的メイドは許可なく寝室には立ち入ってはいけないんだけど、扉を閉めるくらいならいいよね…



ゆっくり近づいて開いてる扉を閉めようと手を伸ばしたが、予期せず寝室から出てきた人物によって目的を果たすことはできなかった。



「お前は誰だ…?」




低くてよく響く声。

金髪碧眼の持ち主でいつもはきちんと身に付けているはずの制服のネクタイを緩めたラフな格好で現れ

たのは …………



「…………白金の魔導士」




まさかのまさか、金色の鍵の部屋の住人は白金の魔導士ことレナード・ハルディウスだった。





――――― なんでこうなるの~~~!!!!!!



この時の私はまだ気づいていなかった。


部屋の中に入った瞬間から奴に行動を見られていたこと、独り言もバッチリ聞かれていたこと。

もっと言えばキッチンメイドとして働いていた時から目をかけられていたという恐ろしい現実を。






私の明日はどうなる!?














次話ではレナードがリナに初めてのプレゼント?!

ただしそれはワケアリな物だった……

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