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第十話 喰われる歯車と姶良宗主


 朔の捜索のために護衛部隊が樹海へ分け入ったことをカリンは知らなかった。その捜索隊の身体の何処かに、数匹の蝕蟲(しょくちゅう)がついていた事も、それらが御苑の動力伝達路を喰らい、成長した事も。

 しかし、現在の状況だけは誰よりも把握していた。

「このままじゃ、姶良の街まで喰われる! 早く止めないと……!」

 鋼鉄を喰い、朱色の菌糸を肥大化させて成長していく蝕蟲(しょくちゅう)は、もぞもぞと蠢きながらすでにかなりの大きさになっている。かなり離れたこの場所にも、鋼鉄を溶かす熱が伝わってくるほどだ。

 蝕蟲の動きを止めるには、水をかけて体の温度を下げ、機能停止に持ち込むしかない。

 遠目に見ても、両腕で抱えるほどの大きさまで成長しているのが分かる。これ以上大きくなれば、御苑内の伝達路だけでなく姶良の街へ続く歯車まで喰われてしまう。たった数匹の蝕蟲(しょくちゅう)が、この姶良を滅ぼしかねない。

「朔、御苑に大量の水はあるか?」

「厨房の裏に蒸留水の貯水槽があるが……そう簡単には運べんぞ。よく見えんが、あの高さへ水を遣るには、大型の揚水機(ポンプ)が必要だ」

 朔は暗闇に目を細めた。

 退治するとなると、今度はカリン一人が視認できればいいというものではない。何とかこの吹き抜けに籠灯(かごあか)りを設置し、蝕蟲(しょくちゅう)を退治できる環境を整えねば。

 明るくなった事と、カリンらが騒ぎ始めた事で、それぞれ部屋に籠っていた人々が廊下に顔を出し始めた。

 薄暗い中、ざわめきが伝わってくる。

「歯車が喰われてるから、永久機関の動力灯は待ってても復活しない。籠灯(かごあか)りを増やそう。朔、みんなに手伝ってもらえるよう頼めるか?」

 そう言った時、ちょうど背後からカリンを呼ぶ声がした。

「カリン!」

 はっと振り向くと、籠灯りの廊下をかけてくる幼馴染の姿。

 淡茶色の髪を高い位置に括った琥珀色の瞳の女性。

(なぎ)! よかった、いいところに……!」

(なぎ)も来ておったのか?! 夙夜は一緒ではないのか?」

 驚いた朔の声。

 そして、さらにその後ろをかけてきた人影に大きく目を見開いた。年相応の白髪を軽く束ねた一人の老婆。黒灰絣の着物の襟をきっちりと合わせている。しっかりと伸びた背筋は年齢に似合わぬ胆力を感じさせたが、かなりの歳を重ねている事は間違いない。

「師匠! 天路(あまじ)師匠ではないか! 何故、(なぎ)と共におるのだ? どこにおったのだ? 何度も永久機関へ行ったが、一度も見かけなかったというのに!」

 まるで悲鳴のような声が響き渡る。

「煩いぞ、朔坊。落ち着け」

 老婆は――天路(あまじ)は問答無用で朔の頬をひっぱたいた。

 あまりに突然の事に朔は目を白黒させた。

「……痛いぞ、師匠」

「気付けには十分だ。それが日輪の作った義手か? 酷い有様だな。見せてみろ」

 怒りっぽくて目つきが悪くて口が悪い。手がすぐに出るのもそれらしい。朔の師匠は、だいたいカリンが想像していた通りだった。

 師匠との再会を喜んでいるような、慌てているような、一方的にやり込められているような。そんな朔の姿を見て軽く笑い、カリンは凪に目を向けた。

「凪、どうして朔の師匠と一緒なんだ?」

「永久機関の近くで会ったの。天路さんは樹海へ行きたいそうよ。夙夜じゃ連れ出すのは難しいから、私と交代したの」

「そうだったのか」

「それより、これは何の騒ぎ? これじゃ、逃げたくても逃げられないわよ」

「御苑で蝕蟲が出た。退治しないといけないんだけど、動力伝達路が蝕蟲にやられてこの暗闇だ。凪、頼む。退治する前に、暗闇を何とかするために籠灯りを作りたい」

 そう言うと、凪は首を傾げた。

「あら、でもカリンなら別に籠灯りがなくても見えるわよね?」

「蝕蟲はもう抱えるほどまで育ってるんだ。あたし一人じゃ手に負えない。だから、御苑の人達の力を借りたい。普通の人間はこの暗闇じゃ動けないだろう? だから、吹き抜けの欄干に提灯型のやつをいっぱい作って吊るしたいんだ。凪、頼めるか?」

 カリンは袂に入っていた蛛網蟲(ちゅもうむし)と輝光蟲をありったけばらまいた。

 煌々と光る輝光蟲に、凪は目を細めた。

「いいけど……一人だから少し時間がかかるわよ? あとは、御苑の構造が分からないから、欄干に設置していくのは無理かも」

 確かにそうだ。

 カリンは師匠との再会を喜ぶ朔に声をかけた。

「朔! 吹き抜けの欄干に籠灯りを設置したいんだ。御苑の誰かに手伝ってもらえないか?」

「ああ、いいぞ。加耶に頼んで何人か手伝ってもらおう」

 応急処置をしてもらったのだろう、左手の義手の歪んだフレームはシャフトを添えて補強してあった。有り難い事だ。

 よく見ると、朔の師匠は月白種族だった。肥大化した耳と、皺の奥の目は光彩が大きい。

 師匠の天路は、カリンを見て目を細めた。

「日輪の妹のカリンだったな。蝕蟲(しょくちゅう)と呼んでいるのは、まさか朱色の菌糸で、(きのこ)に寄生して骨格を喰う蟲のことか?」

 朔の師匠である天路の口調は、どことなく朔に似ている。幼い頃から慕っていたという朔が、この老婆の口調に影響されたのはすぐに分かった。

 そして、天路は蟲にも造詣が深いという。さすがに蝕蟲の事も知っていた。話が早くて助かる。

「そうだよ。吹き抜けの動力伝達路がすでに喰われた。両手で抱えるくらいの大きさまで成長してる。早く水をかけて活動停止させないと」

「……水をかければ停止する、というのは本当か?」

「ああ、以前に樹海で見かけた時、そうすれば活動停止することを確認してる。おそらく、大きくなっても同じはずだ。朔、大型の揚水機(ポンプ)のあてはあるのか?」

「師匠に聞いたのだが、上階の湯殿へ水を送るために備え付けられたものが使えそうだ。そこへ、永久機関の蒸留水をくみ上げる事が出来れば何とかなりそうだ」

「蒸留水のくみ上げの方は私が何とかしよう。そのあたりで人手を借りたいが……」

 天路は言葉をふと止めた。

 天路の肥大化した耳が、音を聞くように方向を変える。


 と、ざわついていた周囲が急激に静かになった。

 薄暗闇から、誰かの気配が近づいてくる。

 朔の母に似た荘厳な気配に、総毛立った。この状況で、朔を母親に渡すわけにはいかない。

 カリンは朔を庇うように立つ。が、朔はそれを制した。

「大丈夫、(のぞむ)姉さまだ」

(のぞむ)……姶良の、宗主か?」

 そこへ投げ込まれる、凛とした声。

「ああ、天路(あまじ)さん、ここにいらしたのですね。私はあの場所を離れていい許可は出していませんよ。何故永久機関を離れたのです? 何より、この騒ぎがなんなのか説明してください」

 弓弦とよく似た、意志の強い声。

 衣擦れの音と共に姿を現したのは、宗主一族の証である藍色の衣を幾重にも纏った女性だった。朔や弓弦よりいっそう色素の抜けた銀糸のような髪を流し、何人もの供を連れてゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。

 面立ちは母の(おぼろ)と似ていない。穏やかそうな気性を感じさせる伏し目を、長い睫毛が縁取っていた。

 姶良宗主、(のぞむ)。御苑で、姶良の町で、最も権力を持つ女性。

 籠灯りを作っていた女性たちも皆、手を止めて望に頭を垂れた。

「御苑の灯りが落ちたのは何故です? 永久機関に何かあったのかと思い、永久機関へ向かってみれば天路さんがいらっしゃらなかった……率直にお聞きします。これは貴方の仕業ですか、天路さん」

 真っ直ぐに天路を見据え、望が問う。

 有無を言わさぬ口調は、やはりどこか母の(おぼろ)と近しいものがあった。

 天路は腰に手を当て、頭をかいた。

「これは永久機関の損傷ではない。私も原因が分からず、慌てて地下から出てきたところだ」

 むしろ、永久機関を置いて御苑から逃げるため、先ほど全整備を終えたところだ……という言葉を、天路は喉の奥に飲み込んだ。

 代わりに横からカリンが答える。

「原因は蝕蟲(しょくちゅう)って蟲だ。何故か分からないが、鋼鉄を喰う蟲が御苑に入り込んでる。すぐに水をかけて停止させないと、歯車をすべて喰われるぞ!」

 望はそれを聞いて、頬に指を当て、首を傾げた。カリンの事を信じるべきか思案しているように見えた。

 その様子を見て、天路が前に進み出た。

「彼女は日輪の妹のカリンだ。おそらくこの場にいる誰よりも蟲に詳しいだろうな。少なくとも、今そこで鋼鉄を食んでいる蟲に関しては私よりよく知っている」

「そうだ。俺も、樹海の端へ行った時に蝕蟲を見たが、確かに水につけたら大人しくなったぞ」

 月白種族たちのいう事なぞ、とざわめく文官たち。

 しかし、天路と朔の擁護で、望はカリンの話を聞くことに決めたようだ。

 若くして宗主となった彼女は、人の話に耳を傾ける事を知っていた。御苑の危機だという事を真っ先に理解し、その上で自分と文官たちには対処できない事態だという判断を下した。

 望は背後に警戒しながら控えていた文官を制した。

「天路さん。どうすればこの状況を打開できますか?」

「厨房裏の貯留槽へ引いている管を地下へ伸ばして永久機関の蒸留水を使いたい。が……人手が必要だ。すぐに弓弦に命じて護衛部隊をすべてここへ降ろせ。弓弦はどうしている? 何故この騒ぎで護衛部隊が動いておらんのだ?」

 朔は弓弦の名が出て、さっと目を逸らした。

 望はともかく、師匠である天路がそれを見逃すはずもなかった。

「どうした、朔坊。弓弦はどうした?」

「……麻痺させてきた。解毒剤がなければ、まだ動けんのではないだろうか」

 朔の言葉に、天路は白髪を揺らして大きくため息をついた。

「一体何をやっているんだ、朔坊。通りで護衛部隊を見んわけだ」

「先に手を出してきたのは弓弦姉さまだ! こんな事になると分かっていれば、俺だって!」

 言い訳を始めようとした朔だったが、ふと廊下の向こうに目をやって、言葉を止めた。

 薄暗がりの中から、隊列を組んで現れたのが護衛部隊だったからだ。黒々とした人の列が狭い廊下を割ってやってくる。

 望率いる文官の集団と、護衛部隊が衝突間際で停止した。

 カリンと朔は同時に臨戦態勢に入る。無論、争っている場合ではないのも分かっているが、捕まるわけにもいかない。

 護衛部隊の隊列が左右に分かれた。

 そしてその中央を、日輪に支えられた弓弦がゆっくりと歩いてきた。麻痺は残っているのか、朔を睨みつけ、震える声を絞り出した。

「朔……貴様、ふざけた事をしてくれたな。だが、この状況で逃げておらんかった事だけは評価してやろう……少しは、宗主一族であるという自覚があったようだな」

「弓弦姉さま! もう動けるのか?」

 驚いた声を出した朔に、日輪が答えた。

「オレが解毒剤を持ってたんだよ」

「……そうか、兄さんには解毒剤を渡してあるんだった」

 カリンが人体に麻痺を起す性質を持つ(かび)から精製した薬は何種類もあるのだが、その解毒剤は日輪と夙夜に渡してある。夙夜はこの薬品を使って謎の武器を作る為。日輪は隣で武器開発をする夙夜のとばっちりを喰らった時の為だ。

 肩を竦めた日輪は、そこで弓弦に視線を落とし、あきれた様子で肩を竦めた。

「ごめんね、カリン、凪。朔を捜索している時に護衛部隊が樹海に分け入ったらしいんだ。どうやら、その時にあの蟲を連れてきたらしい」

 そう言うと、弓弦は眉を寄せて険しい顔をした。

 日輪の言う通りらしい。

「……ここからはしばらく、一時休戦でいいね、カリン、朔」

 二人は同時に頷いた。明らかに周囲の温度が高くなったのが分かるほどに蝕蟲が成長している今、もはや一刻の猶予もない。母の(おぼろ)ではないが、姉弟喧嘩も兄妹喧嘩もしている場合でもない。

 いい子だ、と優しく笑った日輪は、カリンに尋ねる。

「カリンはきっともう、どうしたらいいか分かってるはずだ。オレたちにもその方法を教えて欲しい」

「はい、兄さん」

 素直に頷いたカリンは、既に籠編みを始めている凪を指した。宗主一族が来ようと、日輪が来ようとこの作業を一人、淡々と続けていたのは、カリンと共に樹海を越え、共に蝕蟲と出くわしたことのある凪が、今の切迫した状況を誰より理解していたからだ。

「兄さん、吹き抜けに籠灯りを設置したいんだ。きっと凪だけじゃ時間がかかるから、兄さんも手伝ってあげて」

「分かった。この灯りに関しては、御苑に人達より、オレや凪がやったほうが早いもんね。設置も任せて。材料さえあれば、設置用の簡単な機械を作れると思う」

 頷いた日輪。

 続いて朔は天路を見た。

「師匠、(のぞむ)姉さまと弓弦姉さまに先ほどの作戦の説明をしてくれないか。その上で、姉さまたちは指示を出してくれ。俺はカリンと先に上って揚水機(ポンプ)の準備をする」

 二人はそれぞれに指示を出し、朔は慣れた手つきでカリンを片腕で抱き上げた。カリンも慣れたように首に手を回した。

 あまりに自然なその姿に、日輪も止めるタイミングを逸してしまった。

「朔、もう一回跳べるか?」

「分からん」

 精神的に、義手の耐久度的に。かなり限界であることは分かっている。

 それでも行かなくてはいけない。

「頼んだぞ、姉さま!」

 最後にそう言い置いて、朔は吹き抜けの天井に向かって昇降機の菌糸を伸ばして跳んで行った。

 残された姉と兄は、慌ただしく飛んで行った弟と妹を見送った。呆気にとられるほどの刹那の邂逅に、全員が動けないでいた。

 唐突に弟子からすべてを放り投げられた天路は、ため息をついて頭をがりがりとかいた。

「あー……日輪、弓弦嬢、望嬢、3人集まれ。朔坊とカリンの作戦を説明する。その上で何をするかは自分たちで考えろ」

 色の違う6つの目が天路に向けられた。

「年少の者に仕切られる事に思うところはいろいろとあるだろうが、今はそれどころではない。まずは聞け。そして、それぞれが役割の通りに動け。失敗すれば、姶良は落ちるぞ」



 話を聞いて真っ先に動いたのは(のぞむ)だった。突然の暗闇に焦っていたのは、宗主である望とて同じ。どうしてよいか分からなかったためにとりあえず全員を連れて永久機関に向かうという短絡的な行動をとった。

 しかし、落ち着きを取り戻してからの指示は的確で、早かった。

 まずは引き連れていた文官たちに、御苑全体での被害を確かめるよう指示を出す。物理被害もそうだが、人的被害を先に確認せねばならない。そして、御苑の灯りが落ちた事で動揺しているであろう行政区へ騒ぎ立てないようにとの通達を出した。最後に、蝕蟲からの物理被害を受けないよう、周囲の人々を集めて地下の牢屋に避難する事にした。

「私自身が蝕蟲と対峙することは出来ません。実働は弓弦に任せます」

 自分が被害を受ければ総崩れになる。

 精神的支柱である宗主は、そう言って避難を選択した。

 姉から実務を引きついだ妹の弓弦も動き出す。まだ麻痺の残る手足を動かし、よろけながらも部隊の戦力を分けた。

 昇降機の使用が上手い隊士を数名選抜し、籠灯りの設置要員に。残りの者たちの指揮権は天路に譲渡し、半分を永久機関の蒸留水を溜める貯水槽へ、もう半分を厨房裏の水瓶へと振り分ける。

「厨房裏から地下へ水管を伸ばすと言うが、材料はあるのか? 天路」

 弓弦の問いに、天路は即答した。

「永久機関のものを転用するつもりだ。永久機関の8基のうち、1基を完全に停止させる」

「なっ……!」

 それを聞いた弓弦は目を見開いた。

 姶良の者にとって、永久機関は絶対だ。一部とはいえ、停止させると聞いては心穏やかでいられない。

 しかし、それを宗主である(のぞむ)が制した。

「いいでしょう。天路さん、貴方の判断で第一高炉、不足があれば第二高炉までを停止させる事を許可します」

「感謝する」

「弓弦、貴方はどうするのですか?」

「私はこのまま、燈火の設置部隊を援護する。ようやく手の痺れが消えてきたところだ」

 左手を握りしめながら答えた妹に、望は小さくため息をついた。

「無理してはいけませんよ、弓弦。貴方はいつも無茶ばかりするのですから」

「その台詞は朔に言え。私の言う事を何一つ聞きはしない。今もそうだ。この動力停止は、私が引き起こしたことだというのに、あいつはっ……!」

 悔しげに拳を握りしめた弓弦の肩を、日輪はぽん、と叩いた。

「反省する前に動くて言ったよね、弓弦さん。今は朔とカリンを羨むんじゃなくて、少しでも早く動いたほうがいいんじゃない?」

「分かっている! 望姉さんも早く避難してくれ。あとは私と護衛部隊が引き受ける」

「頼みましたよ」

 闇の中へ消えて行く望の銀糸を見送って、弓弦は両手で自らの両頬を叩き、気合を入れた。

「じゃあ行こうか、弓弦さん」

 当たり前のように言った日輪に、弓弦は眉根を寄せる。何故お前がついてくるんだ、と言わんばかりだ。

 対して日輪は優しげに――弓弦から見れば酷く胡散臭く――笑った。

「弓弦さんはオレが相方(パートナー)じゃ不満かな?」

「誰が相方だ。口を慎め、月白種族」

「オレ、自分で言うのも何だけど、割と役に立つよ」

「……勝手にしろ」

「どうも」

 穏やかに笑った日輪は、この間もずっと淡々と籠灯りを作り続けていた凪に声をかける。

「すぐ戻るから、全部作っておいて。欄干に貼り付けなくていいよ。それは弓弦さんとオレがやるから」

「全部?!」

 凪は、目の前に積まれた輝光蟲の山を見て絶句する。

「凪ならできるでしょ」

「……夙夜が、たまに日輪兄ちゃんが厳しいって言うの、分かる気がするわ」

「何か言った?」

 この距離なら凪の声は確実に聞こえているだろうに、わざと聞いてくるのだから性質が悪い。

「もう、分かったわよ! 作っておきます」

「お願いね」

 笑顔で頼まれると断れない。凪は承諾して、また黙々と籠編みを始めた。


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