歩いていた二宮尊徳
超短編ホラ童話。
二宮尊徳は歩いていた。足取りは荷物のせいで重いが、しっかりしている。
夜空には月が雲間を行き来する。それでも千切れ雲。足元は意外と明るいのでゆっくり歩けば大丈夫だ。夏夜のほどよく涼しい空気は気分を持ち上げた。
小さな学校の校庭は二宮尊徳の通り道だった。すると校舎の方から声がする。
そちらに注意を向けると、窓に懐中電灯らしき光が漏れている。
二宮尊徳は子供が肝試しに来たのだなと微笑ましく思い、注意すべきか迷ったあげく、
逆に驚かせようと足を向けた。その方がお灸をすえる意味でいいように思えた。
木造校舎の後ろの管理人室の戸が閉まりきらず、戸を動かすときコツがあって、簡単に開いてしまうと、管理人のおじさんが嘆いていた。校長先生に伺ったところ予算が下りなくて直せないそうだ。
二宮尊徳はたぶん子供らがそちらから入ったのだろうと思って裏に回る。
案の定、戸は開いていて、背負った薪を降ろし、一本取り出し、火を付けた。
炎がついて安堵し、ゆっくりと入っていった。
ちょうど廊下を歩いていたとき、教室から子供たちが出てきた。
「出た〜!」
子供たちは脇をすり抜け、逃げ出した。
二宮尊徳は子供の驚いた表情に満足し、校庭を去る姿を見送った。
そのまま二宮尊徳はしょいかごをしょい、校庭を戻る。そして、鉄棒の脇にある石の上によじ登る。
そして、歩いた格好のまま、月明かりで読書をするのだ。