天使
「、、、那、、、旦那。着きましたよ!」
「あ、あぁ。悪い悪い。あんまり気持ち良かったんでな。
これ、取っといてくれ。」
「へへ。ありがとうございます。では、、、。」
身なりの良く、上品な白い髭を蓄えた男が
馬車から降りた。
「昔のままだ、、、。何も変わらず。」
豊かな森の中にある村で白い髭の男は慣れた足取りで、
表には出さないが嬉しそうに一軒の家に入って行った。
「そろそろ来る頃だと思いましたよ。
何もありませんが、どうぞゆっくりしてください。」
出迎えたのはこの村の長だ。
「いや、、、そうもゆっくりとはしておれんのだ、、、。」
「何もおっしゃいますな。この遠く離れた村にも噂は届いております。」
「そなたとも随分と会ってはいないが、、、。やはり聞こえていたか。」
村の長が小さく溜め息を洩らした。
「どれ程の時が流れようとも、私の命が尽きるまでは聞こえてしまうのです。」
「、、、そうだったな。我が王家の為とはいえ、そなたの一族にも同じ様に、、、。」
白い髭の男は膝まづき、頭を下げた。
「一国の王ともあろう人が、このような老いぼれに御頭をさげるものではありません。
それに、我が一族は自らこの国に身を捧げたのです。
こんな山奥にいるだけではこの国に生を受けた意味がありません。
とは言うものの、私は聞こえるだけの者、、、。」
「、、、かたじけない、、、。早速だが天使に会わせて欲しい、、、。」
「そうでしたな。しかし、、、王様。
天使は、まだ未発現なのです。
それでも本当に連れて行かれますかな?」
「、、、うむ。そなたらの一族は、お告げにより天使を授かる。
その御子が十七の歳に力が発現する。」
「おっしゃる通りでございます。
ここ百年、後にも先にもお告げを受けたのは当代のみ。
まだ十五の歳でございます。」
王は少し考え込み、もう一度頭を下げた。
「このままでは、、、我が国は終わりだ。
そなたと天使に頼らざるをえないのだ、、、。」
「分かりました。すぐに支度させましょう。
レキ。レキや、、、。」
「はい。ただいま。」
奥の部屋から一人のまだ幼さを少し残した少年が、
長の横へやってき、王に深々と頭下げた。
「そうか。この子が天使か。」
「左様でございます。レキと申します。」