異世界よこんにちは×2
「うわあぁぁぁぁ!!」
ドスン!と震動が伝わった。目を開けて確認したら、熊の怪物が降り下ろした爪は私のすぐ隣に突き刺さった。なんつー威力だ。
熊の怪物は深く突き刺さった爪を抜こうとしていた。
「い…今のうちに…逃げなきゃ…」
私は震えながら立ち上がり、走り出した。
◇◆◇
「ハッ…ハッ…ハッ…うわっ!」
走っていた途中で木の根っこで躓いて転んでしまった。学校の制服のままだったから、走りにくかった事もあったかもしれない。膝がヒリヒリする。どうやら、膝を擦りむいてしまったみたいだ。
「グルルル…」
そうこうしている間に追い付かれてしまった。これはピンチです。ヤバイです。
「グルァー!」
また熊の怪物は爪を降り下ろしてきた。
「わ…」
どうやら、本当に命の危険にさらされた時は声が出なくなってしまうらしい。――今度こそ本当に死んじゃうんだな。
私が死ぬと確信して、余り痛くなりませんように、と願いながら目を閉じた。しかし、一向に痛みを感じなかった。
「あ…あれ…?」
不思議に思い、見てみると目の前に人がいた。後ろ姿でよく分からないけど、背が高くがっしりした体型の男の人だ。その男の人は大きな剣を握っていた。そして、熊の怪物の方を見てみると、爪が綺麗に斬られていた。この目の前にいる男の人が斬ったみたい。
「失せろ。」
男の人が熊の怪物にたった一言言ったと同時に、今まで感じた事がないような凄まじい殺気を発した。すると熊の怪物は怯えたように後ろを向いて走って逃げていった。
命の危険が無くなり、一安心とホッとしていると、男の人がこちらを向いた。男の人は50代後半位に見えた。白髪で紫色の目をしている。
暫く観察していると男の人の口が開いた。
「コテツ…?」
「へ…?」
コテツ?どこかで聞いたことがある名前だけど、思い出せない。誰だったっけ?
「あぁ、いや、なんでもない。それより、大丈夫だったか―――坊主。」
………ん?今なんて?え?坊主って言ったよね今。坊主ってもしかして私の事?まっさかぁ、そんな訳ないよね。
呆然としていると更に一言。
「どうかしたか?坊主?」
「………私は女だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず怒鳴ってしまった。せっかく助けてくれた命の恩人に礼も言わずに怒鳴ってしまったが、私は悪くない。決して悪くない。
男の人の方を見ると、目を見開き驚いていた。そんなに驚かなくたっていいじゃないか…。
彼は私をまじまじと見て、スカートを見て漸く納得した。服を見ないと分からないだなんて…。確かに髪は短いし、胸も無いけど…だからって…!
私が心の中で泣いていると、少し気まずそうに話し掛けてきた。
「すまん。余り見慣れん顔立ちだったから、間違えた。」
「……もういいです。それより、怒鳴ってしまってすみませんでした。そして助けてくれてありがとうございました。」
「たまたま見つけただけだ……怪我をしているじゃないか。」
男の人は私の膝を見て血が出ている事に気が付いた。
「え?あぁ。ただ擦りむいただけなので大丈夫で……!?」
突然の浮遊感。何が起こったのかと考えていると、お腹の辺りに圧迫感が。つまりこれは――担がれてる状態な訳で。
「あ…あの!下ろしてください!」
「駄目だ。」
「なんでですか!私、歩けますから!」
「途中でまた獣に襲われるかもしれん。」
「で、でも」
「安心しろ。すぐ近くに儂の家がある。」
そういう問題じゃない!理屈は分かるけど、この格好は恥ずかしすぎる!私の訴えは拒否されて、そのまま歩き出した。
こうして私は熊の怪物から助けてくれた男の人に荷物のように担がれて、彼の家までつれてかれた。