あれ? 綾原ってこんなにかわいかったか?【8】
校門前で。
俺は綾原と別れる。
「じゃぁ私、これから塾があるから帰るね」
去っていく綾原の背に俺はなぜか緊張気味になって呼び止める。
あ、あのさ、綾原!
綾原が足を止めて振り返る。
俺は言葉を続けた。
そ、その、さっきはありがとな。あと入院していた時の見舞い……とか、色々。
無表情だった綾原が、初めて俺に笑みを見せた。その笑顔がとてもかわいくて。
俺の心拍数が一気に跳ね上がった。
「あの時助けてくれたお礼。これで返せたかな?」
え?
「スイカ。ありがとね」
あぁ、なんだスイカのことか。
今一瞬あっちの世界で助けた【7】かと思った。
そういや綾原のコードネーム、まだ聞いてないんだっけ。
さすがにコードネームと名前が一緒ってわけないよな。
まぁ今尋ねるほどのことでもないか。
俺は静かに笑みを返して「じゃぁな」と綾原に向けて軽く手を振った。
綾原も小さく手を振ってくる。
ただそれだけ。
綾原も俺もそれ以上の会話をすること無く、そして綾原は背を向けて去っていった。
しばらくして。
朝倉がさりげなく俺の肩に腕を回してくる。ジェラシーに満ちた声で、
「普段笑ったり話したりしない綾原が、なーんでお前にだけ親しげに笑ったり話しかけたりしてくるんだろうな?」
さ、さぁな。
「実は綾原の奴、お前のこと好きなんじゃね?」
は? なんで?
「絶対そうだ。そうに違いない。そうでなければこれは天変地異だ。きっと昼から雷がともなう大雨が降るだろう」
言っている傍から雷の音。
俺と朝倉は空を見上げた。
夏の風物詩である夕立が真っ黒く空を覆っている。
そして。
ゲリラ豪雨が襲ってきたのはそれからすぐだった。