伝言【78】
闇から生まれ出てきた漆黒の大きな黒炎竜は、出てきてすぐ大きく口を開け、鋭い歯で白狼竜の首元に噛み付いた。
噛み付かれた衝撃で白狼竜が口を開ける。
口を開けたことで俺は自由の身になるも、直後に、まるで安全ベルトの無いジェットコースターに乗っているかのごとくその身を振り回される。さすがにこんな危険な状態になると、俺は振り落とされまいと必死になって白狼竜の牙にしがみついた。
黒炎竜の炎の一部が白狼竜の口の中へと入ってくる。
炎は人型を形成し、やがて一人の人物が姿を見せた。
俺はその人物に見覚えがあった。
お前……たしかセガールと一緒にいた赤猿と呼ばれていた男。
白狼竜の口が閉じられる寸前に、赤猿は俺の体を抱えて連れ出し、外へと飛び出した。
そのまま宙に静止するわけでもなく、俺たちは確実に真下へと落ちていた。
浮遊するような落下感が襲ってくる。
――って、ちょっと待て。このまま地面に叩きつけられたりしないよな?
「死ぬ気で魔法使わないと、お前このまま落ちて死ぬぜ」
は?
言われると同時にパッと、赤猿は俺の体を離してきた。
俺は重力に従い真っ逆さまに地面へと向かって落ちていく。
しだいに迫ってくる地面。
ちょ、待て! 俺は魔法の使い方なんて知らねぇぞ!
どう使えばいいのか思い浮かばないまま、しだいに目前へと迫ってくる地面に、俺は次に襲いくるだろう痛みと衝撃を想像し、きつく目を閉じた。
もうダメだ。俺はここで死ぬ。
しばらくして。
目を開けた時には、俺は何事なく地面に着地していた。
あれ?
俺は体の無事を確認するように自分の両手を見つめ、握ったり開いたりして確認する。
どこも痛くない。なぜだ?
ふと上空を見上げれば。
赤猿がこちらに向かって落下しながら、空いた片手を向けてくる。
手の平から生まれ出た太い火柱が大地に届き、安定した浮遊感で赤猿は地面に降りてきた。
俺の髪や肌を、熱さを感じない程度の風がそよいでいく。
赤猿は俺の傍の地面に降り立ち、手の平の炎を完全に消した。
「へぇ。鬼神にならなくても高度な魔法使えるじゃねぇか、お前。
魔法を使わないのは演技か? それとも奴に何か言われているのか?」
俺は慌てて防御の構えをする。
そういやコイツ!? セガールの──
赤猿が手を払い、素っ気無い口調で言ってくる。
「行けよ」
え?
「向こうの世界へ帰るんだろ? チャンスを作ってやったんだ。早く行けよ」
助けてくれるのか? 俺を。
赤猿は無言で俺に背を向けた。
そのまま振り返ることなく言葉を続けてくる。
「言っとくが勘違いするなよ。オレはセガールさんの伝言をお前に言いに来ただけだ。
【次にこの世界に来る時は奴ではなく俺を呼べ】だってよ。
――伝言、確かに伝えたからな」
それだけを言い残して、赤猿は俺の前から去っていった。




