異世界人だとバレてはいけない【18】
俺はベッドから足を下ろすと、立ち上がってそのまま窓へと向かって歩いた。
窓辺に手を置き、そこから見える風景を見渡す。
外国。
一言で言えばそんな感じである。
まるで海外旅行にでも来ているかのような、この世界に来るといつもそんな気分にさせられる。
見慣れていない風景。でもゲームの世界ではよく見る風景。
吹き抜けるそよ風も、物に触れる感覚も、見える立体感ある建物だって、全てが本物だ。
これが異世界というものなんだろうか。
この世界は俺にとって実感が無さそうで実感のある、とても不思議な世界だった。
俺はふと、ある一点で視線を止める。
なぁセディス。
セディスが俺のところへと来る。首を傾げ、
「なんでしょう?」
指差して、俺は尋ねる。
あの向こうに見えるのはなんだ? スゲー高くて大きい真っ白い建造物。
「あれは神殿です」
神殿?
「えぇ。あの建物はこの国が信仰する神が宿るとされる聖域の場所なのです。この国は神が中心であり王も貴族も存在しません。神こそが全て。その神の加護の下、我々は幸せに暮らしているのです」
ふーん。
セディスがにこりと笑って言ってくる。
「外へ出てみますか?」
いいのか?
「その代わり外套衣を着ることになりますけど」
外套衣?
「以前奈々から聞きました。あなたの世界では我々が着る外套衣のことを【ゲームの世界とやらの魔法使いが着る服装】というのでしょう?」
わかりやすいな、その例え。
「ご用意いたします。しばらくここで待っていてください」
そう告げて、セディスは部屋から出て行った。
※
しばらくして、セディスが部屋に戻ってくる。一枚の白い外套衣を手に、
「ではこれをその服の上から着込んでください」
この服の上から?
「奈々はこう言っておりました。こちらの世界の服装は技術に遅れ、あちらの世界と比べて生地が厚く、中が蒸れて大変だと。それでもどうしてもとおっしゃるなら、こちらの世界の服をお貸ししても良いのですが……」
たしかに外套を着る季節じゃないしな。
「外出時はこれを着ることがこの国では当然です。ですからこれを着ないとよそ者であることがすぐにバレてしまいます。この国は信仰上よそ者を嫌っています。ましてや異世界人などもってのほか。異世界人だと思わしき者は全て神殿にて排除される規則となっていますので存在がバレてはあなたの身が危険なのです」
セディスが差し出してきたのは高位魔法使いが着るような丈の長い白のダッフルコートみたいなものだった。
俺はそれを手に取り、広げて見る。
おぉ。なんかこれ、ハリウッド俳優になった気分だ。
セディスが首を傾げる。
「はりうっど? それはどんな気分ですか?」
気にするな。こっちのことだ。
俺はそう言って外套衣に袖を通した。そして、
あ、あれ? 何だこれ? 外れるのか? 装具? 紐? ちょっと待て。これ最終的にどうやって着るんだ?
あたふたと手間取る俺を見てセディスが笑う。
「異世界人とは不思議な種族ですね。幼き子供にも一人で出来ることを迷われるなんて」
いや、俺の世界にこんな服無いし。しかも見た目と違ってこんな複雑な構造になっていたとは。着る順番としてはこれで正しいのか?
「これが先ですよ」
──って、装具だけ渡されても分かるかッ!
セディスはやれやれとため息を吐いてお手上げした。
「服を着せなければならないとは、これではまるで赤ん坊と同じですね」
俺はこめかみに青筋を立て、口端を引きつらせながら言い返した。
お前、一度でいいから俺の世界に転移して来い。同じ言葉を皮肉たっぷりに返してやる。
※
外套衣を着せてもらい、その襟元にあったフードで頭をすっぽりと隠す。その姿は誰ともつかぬ、この街に溶け込める姿だった。
俺は玄関前でセディスを待つ。
「お待たせしました。遅くなりすみません」
セディスも俺と同じような外套衣を着て、フードで顔を隠してやってくる。
「さぁ外へ出ましょう。色々とこの国の事情をご説明します」




