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SR:B 2 ─ そして世界は狂い出す─ 【裏版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 現実世界編
13/41

仕掛けられた罠【13】


 飯を食い終わって二階の自室へ戻ろうとしていた時だった。


 突然、電話のベルが鳴る。


 ちょうど通りかかっていた俺は足を止めた。

 そして思い出す。

 あ。そういや昨日の夜、朝倉に電話するの忘れてた。

 いったい何の用事だったんだろう。


 俺は電話へと向かう。


 電話前で足を止め、そして手を伸ばす。

 受話器に触れようとしたところで、頭の中でおっちゃんがいきなり声をかけてきた。


『取るなよ』


 え?


『罠だ』


 罠?


 鳴り続ける電話。

 取らずにいたせいか、母さんが台所からいそいそとやってくる。


「どうしてここまで来て電話取らないの?」


 い、いや、なんとなく。


 躊躇う俺に、母さんは不思議そうに首を傾げて俺の代わりに電話を取る。


「あら、朝倉君。えぇ、居るわよ。ちょっと待ってね」


 母さんが俺に受話器を渡してくる。

 俺は受話器を取って恐る恐る答えた。


 も、もしもし……?


 電話先の朝倉の声は確かに暗く思いつめたような声をしていた。


「あのさ。急で悪いんだけど、今から学校に出てこないか?」


『切れ』


 え?


『今すぐ切れと言っているんだ!』


 おっちゃんに怒鳴られ、俺は思わず反射的に電話を切ってしまった。

 母さんが怪訝に尋ねてくる。


「どうしたの? 朝倉君と喧嘩でもしたの?」


 い、いやそんなんじゃない。けど、なんとなく。


「なんとなく?」


 すぐに電話が鳴る。


『例の彼女からだ。取っていい』


 言われるがままに、俺は受話器を取る。


 もしもし?


 電話先の声は結衣だった。

 結衣の声は恐怖に震えていた。


「……ねぇK。変なこと聞くけどさ、さっき電話した? あたしの頭の中の人がね、それはKじゃないから切りなさいって言うから不安になって」


 一息置いて、俺は答える。


 切って正解だ。俺は電話していない。


 結衣が安堵の息をつく。

「そう、良かった。それならいいの。ありがと」


 あぁ。


 電話を切って。

 俺はすぐに朝倉に電話をかけた。


 もしもし。俺だ。


「あー? なんだお前かよ。今日は部活ねぇぞ」


 知ってる。お前さ、昨日と今日で俺の家に電話をかけてきたか?


「いや、してねぇよ。なんで?」


 さっきも電話があったんだ、お前から。


 朝倉が笑う。

「それ誰かと間違ったんじゃね?」


 声も間違いなくお前だったし、母さんにも「朝倉」と名乗っていた。


「は? 電話なんてかけてねぇし。何の冗談だよ、気持ち悪ぃー」


 ……。


「……マジか?」


 マジだ。


「なにそれ都市伝説か? スゲー体験だな、お前。なんかオレ鳥肌立ってきた」


 じゃぁお前は本当に電話していないんだな?


「マジでしてねぇって。なぁその話、もっと詳しく聞か」


 用はそれだけだ。じゃぁな。


 俺は話半分で電話を切った。

 母さんが心配そうに尋ねてくる。


「朝倉君、電話してないって?」


 きっと誰かのイタズラだ。気にしなくていいよ。

 俺は心配かけまいとそう答えた。


 母さんが両腕を擦りながら言ってくる。

「イタズラにしてもなんだか気味が悪いわね。今度またそんな電話がかかってきたら教えてちょうだい。警察に行って相談してみるから」


 わかった。

 俺がそう頷くと、母さんは安心して台所へと戻っていった。


 頭の中でおっちゃんが声をかけてくる。

『意外と優しいんだな、お前』


 うるせぇよ。


『まぁそんなことはどうでもいい。突然だが、お前に一つ訊きたいことがある』


 訊きたいこと?


 いつになく真剣な声でおっちゃんが言葉を続ける。

『あぁそうだ。今から言うことに正直に答えろ。

 ──お前、まさかそっちの世界でセガールに見つかったわけじゃないよな?』


 え。


『なんだ、その図星な返答は』


 いや、なんつーか、その……


『見つかったんだな。なぜその時すぐ俺に知らせなかった?』


 知らせるほどのことでもないと思ったんだ。あれから何もなかったし、会ってもいない。


『いや、もういい。手遅れだ。セガールにこのことがバレたんなら隠すまでもない』


 隠す? このことって、いったい──


『こっちの都合だ。気にするな』


 気にするだろ。そろそろ言えよ、本当のこと。


『やーだね。俺の口から言わなくても、いつかはお前にバレることだからな』


 じゃぁもういいよ。理由も聞かないし、教えてくれなくてもいい。その代わり、今すぐこの力を他の誰かに譲ってくれ。


『誰がいるか、そんな呪われた力。俺もいらないっつーの』


 オイ、今なんっつった?


『まぁとにかく、だ。今は迂闊に動いたりするな。とりあえず家でじっとしていろ。俺がセガールの動きを探るまではな』


 どのくらいかかる?


『丸一日外出禁止令だ』


 ふざけんな。なんだよそれ。出るからな、俺は。


『じゃぁ勝手にしろ。その代わりセガールに捕まって拉致られても俺は知らんからな』


 ……。

 そこを言われると困る。

 俺はしぶしぶおっちゃんの言う事を受け入れることにした。


 本当に、ここに居れば安全なんだろうな?


『さぁな。それはわからん。お前がこっちの世界に来れば何とか守ってやれるが、そっちの世界だと俺は一切手出しできんからな。

 調査するにはしばらくお前との交信を遮断しなければならなくなる。その間お前は無防備だ。セガールが接触してくる可能性も充分考えられるから、まぁ拉致られない程度に気をつけろよ』


 その言葉、もっと早めに言っとくべきだろ。



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