一応念のために聞くが、俺たち付き合ってな──うん、そうだよな。【10】
どしゃぶりだった雨は小雨へと変わり。
人がまばらな商店街を、俺は傘を差して歩いていた。
ふと、クレープ屋から傘を差した制服姿の結衣が、甘そうなクレープを片手に駆け寄ってくる。
気付いて俺は足を止めた。
結衣は二つ結びの長い髪をなびかせ、俺の前へとやってきた。
相変わらずな笑顔で話しかけてくる。
「雷どこか行っちゃったね。ごめんね、呼び出して」
いいよ、別に。買い物頼まれてたし。
結衣が俺の傘を見つめ言ってくる。
「あ、なんかKの傘大きいね」
選挙演説で使われている傘らしいからな。父さんの傘なんだが買い物の時なんかに使わせてもらっている。
「え? Kのお父さんって国会議員なの?」
普通のリーマンだ。
「ふーん、そう。──あ、ねぇそっちに入れてよ」
なんでだよ。
「いいから。ちょっとコレとコレ持ってて」
いきなり結衣が俺にクレープと鞄を手渡してくる。
は?
「いいから持って」
半ば無理やり持たされて。
結衣は自分の傘を閉じて、俺の傘の中に入ってきた。
そして俺からクレープと鞄を取り戻し、そのままクレープにかじりつく。
「傘差してるとクレープって食べにくいのよね」
俺はお前の召使いか?
「食べる?」
いらねぇよ。甘いのは好きじゃない。
「あ、そう」
しかも食いかけだろう?
「食べかけだから食べないの?」
いやそういう問題じゃなく、なんつーか……。一応念のために聞くが、俺たち付き合っているわけじゃないよな?
「うん、友達」
だよな。そこがハッキリしていればいいよ。
「あ、ねぇねぇ」
俺の腕を組んで、結衣が通りにあるかわいい小物屋を指差す。
「ちょっとあたしに付き合ってよ」
なんでだよ。俺は買い物があるから行くなら一人で行け。
「じゃぁさ、あんたの買い物にも付き合ってあげるから、あたしの買い物にも付き合ってよ」
どんな理屈だよ。
「いいからいいから」
――そんなわけで。
俺は結衣に無理やり小物屋へと連れ込まれた。
かわいい女向けのアクセサリーが多く売られており、周囲を見回しても女ばかりだった。
そんな店の中を俺だけが男で浮いているような気がして、肩身の狭い思いで落ち着きなく周囲を見回していた。自分で言うのも何だが、店員にいつ肩を叩かれてもおかしくないほど挙動不審ぶりだ。
そんな俺をよそに、結衣は目をキラキラさせながら次々と小物を髪に当てたり耳に当てたり、首元や手首、鞄に当てたりしている。
「ねぇK、これあたしに似合ってるかな?」
髪留めを当てながら結衣が聞いてくる。
え?
唐突に振られ、俺は返答に困った。
「……」
結衣がシュンと悲しげな顔で髪留めを置く。
俺は慌てて答えた。
あ、いや、えっと……どうだろう? か、かわいいし、いいんじゃないか? 別に、うん。
「そんな真剣に答えなくていいよ。Kが似合ってないって言う方に決めるから」
オイ。
「冗談よ。――あ、これ懐かしい!」
結衣が次に手に取ったのはミサンガだった。
「ほら見て、これ。小学校の頃に流行ったよね。友達と同じ種類のミサンガを手首に巻いて【絆】だよって」
そういえばそんなのがあったな。
「ねぇK、あたし達で絆ごっこやらない?」
俺たちで?
尋ねる俺の手首をすぐに掴んで、結衣は売り物のミサンガを巻いていく。
あ、オイそれ売り物
「いいの。あとであたしが買うから。あたしからのプレゼント。
あたし達って頭の中の人に振り回されてばっかりで、あっちの世界で誰とも自由に会ったりできないじゃない。それってやっぱなんか悔しい。
だから、こっちの世界であたし達だけのギルドを作るの。もっとコードネーム保持者の仲間をたくさん集めて、色々情報を共有して、交換し合って、そして──」
きゅっと、結衣は俺の手首にミサンガを結んだ。そして俺の顔を見つめてニコリと笑う。
「逆に頭の中の人を利用して、みんなであっちの世界を自由に満喫しようよ」