夢だよな?【1】
赤い炎に包まれた城の中で、俺は手持ちの剣を感情任せに床に突き刺した。
殺せる者はもういない。
ただ一人、慈悲を乞い続ける王を残しては。
「た、頼む。命だけは助けてくれ。お前の国を狙ったのは我だけではない。巫女を殺したのも我ではない。全ては仕組まれたんだ。我は何も悪くない」
奴はどこにいる?
「奴ならもうここにはいない!」
わかりきった答えを返され、俺は苛立たしげに奥歯を噛み締めた。怒りのあまり自制が吹っ切れ、獣鳥を召喚させる。
グリフォンは俺の意のまま王へと襲い掛かり、王の肩に喰らいつく。
王は激しく悲鳴を上げた。
言え! 奴はどこに行った!?
王は泣き叫びながら答える。
「セディスだ! あやつが全てを知っている!」
「もうそのくらいにしておけ」
ふいに背後から声をかけられ、俺は振り返る。
そこに居たのはセガールだった。
何しに来た?
俺の問いかけにセガールが答えてくる。
「黙って国を離れるなと言っておいたはずだ。黒王がお前を呼んでいる。すぐに戻れ。後のことは俺が始末しよう」
俺は首を横に振った。
この世界を制するより先に、俺にはやらなければならないことがある。
セガールが鼻で笑う。
「復讐か……」
「た、頼む!」
王が俺の足に必死になってしがみついてくる。
「我はお前に全てを話した。我はあの戦争に一切関与していない。だから、どうか命だけは助けてくれ」
俺は冷たくその王を見下し、そして──
◆
突然ラップ系の洋楽が、けたたましい大音量で俺の頭の中に鳴り響いた。
慌ててベッドから飛び起きる。
それと同時に流れていた音楽も頭の中からフッと消えた。
あまりの突然のことに俺の心臓は激しく打ち鳴り、目はギンギンに冴える。
もう二度寝は望めない。
さっき見ていた夢さえも一瞬で記憶から吹き飛んでしまった。
今、何時だ?
机上に置いていた時計に目を向ければ、時計は朝の七時を示していた。
おっちゃんが頭の中で清々しく挨拶してくる。
『おはようさん。悪いな、朝っぱらから。新機能が追加されたみたいだから色々試していたんだ。今度から俺を呼び出す時の音をこれに変えてみようと思うんだが、お前どう思う?』
俺は無言で手短の枕を壁に叩きつけた。
──夏休みが終わるまで、あと十日。