『過労死した天才外科医、異世界で聖女になる!~私の手が届く限り、誰も見捨てません!~』
第一話 仕事に捧げた人生の、その先に
天野美月、二十九歳。
彼女は現代日本で名の知れた天才外科医だった。
恋人もいない。休日もない。友人との約束も何度も断り、人生のほとんどを病院で過ごしてきた。
「先生、もう休んでください!」
「大丈夫。目の前の患者さんを放っておけないでしょう?」
それが美月の口癖だった。
しかし、ある日、連続手術を終えた彼女は病院の廊下で倒れた。
原因は過労。
二十九歳という若さで、その人生に幕を下ろした。
……はずだった。
「ここは……どこ?」
目を覚ました美月が見たのは、見知らぬ森と、空に浮かぶ二つの月だった。
どうやら異世界に転生したらしい。
しかも、この世界には魔法が存在し、回復魔法を使える者もいるという。
だが、医療技術は驚くほど未発達だった。
「回復魔法があっても、救えない命があるんだ……」
美月は決意した。
前世で培った医療知識と、この世界の魔法を組み合わせれば、もっと多くの命を救えるはずだ。
「今度こそ、私の手が届く限り、誰も見捨てない!」
◇
第二話 異世界の天才外科医
◇
美月は最初に訪れた村で、重傷を負った少年を救った。
回復魔法だけでは治せなかった腹部の損傷を、医学知識と魔法を組み合わせて治療したのだ。
その後も感染症、骨折、出産時の危機など、次々と患者を救っていった。
やがて美月は小さな診療所を開設する。
治療費は貧しい者からは取らず、支払える者からだけ受け取る。
「先生、こんなに安くていいんですか?」
「治療を受けられるかどうかは、お金で決めることじゃありませんよ」
美月は衛生管理や消毒の重要性も教え、村の死亡率は目に見えて低下していった。
評判は周辺の街にまで広がり、いつしか彼女は奇跡の医師と呼ばれるようになった。
第三話 貴族たちの嫉妬と陰謀
◇
しかし、美月の活躍を快く思わない者たちもいた。
この国では医療を一部の貴族が独占し、平民から高額な治療費を搾取していた。
美月の無料診療は、彼らの利益を脅かす存在だった。
「平民ごときに高度な治療など必要ない!」
「この女のせいで、我々の収入が激減している!」
貴族たちは美月に診療所を閉鎖するよう圧力をかけた。
しかし、美月は一歩も引かなかった。
「治療を必要としている人がいる限り、私は診療を続けます」
怒り狂った貴族たちは、ついに美月の暗殺を計画する。
ある夜、診療所から帰宅する途中、美月は複数の刺客に襲われた。
「お前さえ消えれば、全て元通りだ!」
逃げ場を失い、刃が振り下ろされたその瞬間――。
「その剣を下ろせ!」
現れたのは、黒髪に碧眼の美しい青年だった。
彼こそ、この国の第一王子アレクシス・フォン・ヴァレンシュタイン。
城下町をお忍びで視察していた彼は、美月が襲われる場面を目撃したのだった。
王子の護衛騎士によって刺客は捕らえられ、暗殺計画の背後に複数の有力貴族がいることが判明する。
王子は激怒した。
「民を救う者を殺そうとするなど、王国への反逆に等しい!」
関係した貴族たちは徹底的に調査され、爵位剥奪や財産没収、投獄などの厳罰に処された。
第四話 第一王子の求愛
◇
事件後、アレクシスは美月を王宮に招いた。
「君の勇気と献身には心から敬意を抱いている。できれば、これからも私のそばにいてほしい」
王子は美月に惹かれていた。
身分も名誉も求めず、ただ人々を救うために危険を顧みない女性。
彼女を守りたい。そして、いつか人生を共にしたいと思うようになっていた。
ーーしかし、美月は申し訳なさそうに首を横に振った。
「お気持ちは嬉しいです。でも、私にはまだやらなければならないことがあります」
「それは?」
「救える命を、もっと増やしたいんです」
美月は王宮専属医師になることも、王子の寵愛を受けることも望まなかった。
彼女が望んでいたのは、誰もが平等に医療を受けられる国だった。
最終話 聖女の誕生
◇
一年後。
王宮では、美月の功績を称える式典が開かれていた。
国王は彼女に褒美を与えようとし、第一王子も改めて求婚を申し出た。
しかし、美月は一歩前に進み、集まった人々を見渡した。
「私は特別なことをしたつもりはありません」
「目の前で苦しんでいる人がいたから、助けただけです」
ーーそして、はっきりと宣言した。
「私が愛しているのは、私を受け入れてくれたこの街の人々です! 貴族も平民も関係ありません。お金がある人もない人も、命の価値は同じです! 私の手が届く限り、私は全ての人を救い続けます!」
その瞬間、美月の身体から眩い光が溢れ出した。
天から降り注ぐ神聖な光。
神官たちは驚愕し、次々と膝をついた。
「こ、これは神の祝福……!」
「間違いありません! この方こそ、神に選ばれし聖女様です!」
美月は聖女の称号を授けられた。
その後、彼女の提案によって王国全土に公立診療所が建設され、医師や看護師の育成制度も整えられていった。
一方、第一王子アレクシスは相変わらず美月に夢中だった。
「美月、今夜こそ一緒に食事をしないか?」
「申し訳ありません! 急患が三人も来ているんです!」
「……またか」
王子の恋路はなかなか進まない。
それでも彼は諦めなかった。
やがて美月は王子の想いを受け入れ、二人は結ばれることになる。
ーーそして後世、人々は彼女をこう呼んだ。
『貧しき者にも、富める者にも、等しく手を差し伸べた奇跡の聖女』
かつて仕事に人生を捧げたものの志半ばで過労死した一人の外科医。
彼女は異世界で、今度こそ自分の信念を貫き、多くの命と人々の笑顔を守り続けたのだった。
ーおしまいー




