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くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第一章 出会いの日。赤く、流れて。
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第六話

 アスファルトで続く道なりをしばらく歩いていくと、視界の両端に田んぼが広がり始める。そこから更に5分程歩き、足元から伝わる感触があぜ道へと移り変わり始めた辺で、山の中へと続く石畳の階段が姿を現す。


 毎回この階段を昇るのが難関だ。お世辞にも整備されてるとは言えない階段を段数にして百段程は登らなければならない。燦々と降り注ぐ陽の光を背中で受けとめ、鉛のように重たくなり始めた足を必死に持ち上げる。そうしている内に、じわりと滲み出した汗がシャツに引っ付いて気持ち悪いので何度も仰ぐようにして身体に風を入れ込んでいると、やっと目的地に着いた。


「海月ちゃん、着いたよ」

「やっと?もう暑すぎて死ぬかと思った。溜まり場にするなら、もっと楽に行ける場所にしなよ」


 両膝に手をつき、背中を折り曲げるようにして息を整えていた海月に、静香が道中の自販機で買った炭酸ジュースを手渡した。僕も同じ銘柄の炭酸を口にする。乾ききっていた喉が潤い、弾けた泡が舌先から順に痺れていくような感覚と共に喉を滑り降りていく。


 拓馬は僕達よりひと足先に階段を登りきっていたようで、石畳に腰を下ろし眼下に広がる景色を眺めていた。


 僕も視線を合わせるように身体を向ける。手前にはさっきまでいた僕達の通う高校が小さく映る。その周りにはあちこちに民家が立ち並び、駅を抜けた先では水平線が広がっている。この辺りは山まで二十分海まで二十分という謳い文句に相応しく、山と海に囲まれている。決して都会とは言えないが、田舎というには栄えているという中間をとったような風情ある地域だ。


 「さぁ、行こうぜ」


 拓馬は立ち上がると制服に付いた砂を手で払い、僕に声を掛ける。そう、僕達は景色を眺める為にわざわざこの場所に来た訳じゃないのだ。


 眼下に広がる街とは反対側に視線を向けると、大小様々な木々が生い茂る森のアーチのような道がひらけている。僕たちがさっきまで腰を下ろしていた場所は、言わば自然が創り上げたトンネルの入口のようなものだろう。


 足元にはうっすらと苔の生えた石畳が奥の方まで続いている。至る所から斜めに差し込む木漏れ日は控えめで、ひかりのカーテンとも思えるような動きをする。静かに揺らめき、ひらひらと、そよ風を受けるかのように。


 宙を漂う埃や塵がそのひかりを反射すると、雪のようにも小さなひかりの玉のようにもみえた。


 僕達はそのひかりが織りなす幾つもの芸術をくぐり抜け、奥へ奥へと足を進める。


「みえたぞ、いつみても凄いや!」

「だね!」


 拓馬と静香は興奮気味に口を揃える。


 僕達の目の前にそびえ立つ一本の巨大樹。竜皮のような荒々しい質感を思わせる幹は僕達が両手を広げて抱きしめようとも、決して左右の手が触れ合うことはないだろう。それくらい太い幹が空まで伸び、森のアーチを支えるかのように枝や葉を茂らせている。


 そのすぐ隣には、木造で出来た小さな民家がひっそりと佇んでいる。家の中へと通じる扉の前には木造出来たテラスまであり、その端に民家を更に小さくしたような犬小屋が置かれている。


 僕達は巨大樹の手前にあるベンチに腰を下ろすと、一時の休憩をとった。


 辺り一面に森の匂いが漂い、大きく息を吸い込むとひんやりとした空気で肺の中が満たされていく。すぐ傍で流れる小川のお蔭で、この場所は室内にいるかのような涼しさを感じることが出来るのだ。


 川がせせらぎ、小鳥達はさえずり歌を歌う。地上での生に歓喜の声をあげるかのように、蝉達はけたたましく産声をあげる。まるで自然が織り成すオーケストラのようだ。この場所は他とは違った。静謐(せいひつ)な空気が漂っている。僕たちは、そこに惹かれたのかもしれない。


「凄いねここ。涼しいし、めちゃくちゃ癒やされるんだけど!」

「でしょ?私達のお気に入りの場所なんだ!」


 互いの手を合わせ、海月と静香は微笑み合っている。この場所に来るまでの道中も二人は途切れることなく話し続け、既に仲良くなっているようだ。こういう時、女の子の仲良くなるスピードは凄まじいものがあると思う。仮に、海月が男の子だとしたら、僕はこの短時間で心を打ち解けることが出来たのだろうか。

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