第二話
海月の葬儀が開かれたのは、それから一週間後のことだった。
静かに弔ってあげたいというご両親の意向で親族のみの葬儀だったが、親しい間柄だったということで僕は呼ばれた。
海月のお母さんによると、静香と拓馬も葬儀に呼ばれているらしい。
二人に会うのは少しばかり気が引けので、僕は海月への献花を早々と済ませて家をあとにした。もう、ここにはいれないと思った。二人に会うことへの躊躇いも勿論あったが、僕の心は悲しみで押し潰されそうだったから。
黒い扉を開き外に出ると、針のような雨が降っていた。まるで僕の心を表すかのように静かに地を打つ雨が地面を濡らし、湧き上がったのは土の香りと悲しみだった。
鉛のように重たく感じる足を一歩ずつ前に進めて、ようやく門扉に辿り着くと、見覚えのある二人が門を隔てた向こうに立っていた。
静香と拓馬だ。
学校では勿論姿を目にしていたが、こうして面と向かい合うのは久しぶりだった。
二人から距離を取られている今、面と向かい合えば責め立てられるかもしれない、あるいは無視されるかもしれない。何より僕は二人に合わす顔がない。そう思うと、気付けばすっと顔を伏していた。そのまま一歩前へと足を踏み出そうとしたその時だった。駆けてきた静香は勢いよく門を開き、僕の身体を包み込んできたのだ。
「響、一人にしてごめん……ね。辛かったよね。ほんとにごめん」と僕の胸にすっぽりと顔を埋めたまま、ぽつりぽつり溢すように言葉を紡ぐ。
一瞬だけ何が起きたか分からなかった。
でも、優しく背中に回された手の体温が、静香の言葉が、和紙に水を浸すように途端に僕の心に染み渡ってきた。傘も刺さずに雨を受けていたせいで既に濡れていた頬は、余計に湿り気を帯びることになった。
「僕、の方こそ」
一度溢れ始めた感情はもう止めることが出来なくて、静香に包み込まれた身体が意思とは無関係に小刻みに震えていた。それを抑えるように、程なくして拓馬に後ろから抱きしめられた。
「響、悪かった。俺たちは受け入れられなかったんだ。お前のやったことを。でも、今なら分かる。お前の立場に立ってみたら、俺たちもきっとそうしていただろうなって、やっと気付いたんだ。ほんとにごめんな。辛かったろ? ごめんな」
鉛色の分厚い雲が広がる空の下、二人は僕の身体を包み込むようにして抱きしめてくれていた。途端に、二人にずっと抱いていた想いが涙と共に溢れ出す。
謝らなければならないのは僕の方なのに。いや、どんな謝罪の言葉を口にしても決して許されないことを僕はしたのに。
僕は、関係が壊れるのが嫌で、一人になることが怖くて、何度も二人に声をかけようとした。でも、出来なかった。
もう、僕にはその資格すらないと思ったから。
「な……なんで?僕は、二人にとんでもないことをしたのに」
潤んだ声で、途切れ途切れになりながらも、そう問い掛けた。
すると、二人は僕の顔を真っ直ぐにみつめて優しく微笑みを浮かべる。
それから、こう言った。
「だって、俺たち仲間だろ?」
「だって、私たち仲間でしょ?」




