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第十六話

 初めて乗る終電の電車は、まるで異世界だった。時間帯が違うだけでここまで乗る人の層が違うのかと思った。


 普段乗る時間帯は、学生やこれから仕事に向かおうとするスーツ姿のサラリーマンや女の人ばかりだったが、今は派手め格好をした若い女の人や男の人、時折唸り声をあげるスーツ姿の男性もいた。酔っ払っているのだろうか。心做しか普段乗る時間帯の電車では嗅いだことのない鼻をつくようなお酒の匂いがする。


 比較的に空いた車内で僕たちは横並びに座った。窓に視線を向けると、外には闇が満ちており、車内の照明が反射して鏡のようになって僕たちの姿が映っている。


 電車に揺られかれこれ十分は経ったが、その間、僕たちは一言も発していなかった。きっと各々で海月への想いと向き合っているのだろう。


 現に僕がそうだった。


 今日一日で何度も感情が、思考が、荒波のように揺れ動き、その度に自分の手綱を握るので精一杯だった。


 二つ目、三つ目と、海月からのメッセージが届き、僕の中で一つの考えが芽を出した。これは、二人に話せば縁を切られてしまうかもしれないという程のものだ。


 もし、海月のみた未来が全て現実に起きるなら、病気で亡くなる日にちまで決まっているのに、どうやって僕は海月を説得すればいいのだろうか。


 いや、説得することすら間違っている気がした。


 僕は海月が好きだ。

 生まれて初めて人のことをこんなに想っている自分がいる。

 出来ることならずっと一緒にいたい。


 でも、同時に僕は海月の幸せを願っている。


 もし、病気で苦しむ前に死ぬことが幸せだと言うなら、それが海月の望みなら、僕は止めることが出来るのだろうか。


 アナウンスが流れ、電車が速度を落としていく。空気の抜けるような音が鼓膜に触れた。僕は先に立ち上がった拓馬と静香に続き、電車から足を下ろした。つい先程まで頭の中を満たしていた考えには蓋をして。

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