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第十五話

 『春、生命の息吹が至るところで吹き抜ける中、私は海辺にいた。ひとりで。


 悲しくて、辛くて、四肢は千切れそうな程に痛む中、息を吸える場所を探してあてもなく歩いていくと、辿り着いた場所はそこだった。


 私はもう、みえてしまった。

 鼓動の止まる瞬間を。

 瞳から消えゆく光を。


 眼下に広がる燃えたぎるような光は、私の抱く絶望を灰にしてはくれなかった。


 夏、蝉が産声をあげれば、鈴虫が賛美歌を歌う。


 誰を祝福してるのかと、聞かずして、私は自分のことだと、理解した。


 だって私はふつうの人に訪れる瞬間を、この夏に全て味わった。

 話し笑って、泣いて笑って、好いて、好かれて、抱きしめて。


 私の周りに集まった三つの魂は手のひらからポケットへと移そう。大切だから。


 沢山の贈り物を貰った。

 この夏に。三つの魂に。


 私はもう怖くない、この贈り物を抱えてさえいれば、きっと。


 やっと、やっとだ、私はやっとくらげになれる。この場所で。』



 僕は海月からのメッセージを読みながら頬を濡らした。再び流れ始めた涙は止まることなく、夏の乾いた空気を湿らせるかのようだった。


「国語が苦手な俺でも分かる、よ。この三つの魂は俺たちのことだよな?」

「海月。海月に、会いたいよ」


 拓馬と静香も僕と同様に涙を流している。鼻を啜り服の袖で何度も涙を拭う拓馬。静香は両手で顔を覆い、しゃがみ込んでしまった。


 僕は、涙で滲んだ視界のままに携帯に視線を落とす。


 海月が次の場所に行く前に手掛かりをみつけないと。海月ともう一度、面と向かって話しがしたい。その一心だった。


 一つ目と二つ目と同じ様に、三つ目のメッセージにも一枚の写真が添えられている。


 暗がりの中で撮られた写真のせいで全体像はよく見えなかった。だが、見える部分から判断するしかない。僕は目を凝らし、穴が空く程に写真をみつめた。


 円形の石から伸びた鉄の支柱。その後ろには錆びついたベンチがある。見たところバス停のようにみえた。僕は、その鉄の支柱から伸びる板に書かれた文字をみつけ、人差し指と親指で画像を拡大した。


 浮かび上がったのは、『岬』という文字。


 その瞬間、ここにきて僕はやっと海月の次の行き先が分かった。海月に「行きたい所があるの」と言われ連れて行かれた場所。僕たちと出会う前までは、よく一人できていたという夕陽が綺麗にみえるあの崖だ。


 確か、あの場所までここからなら電車で五駅。そこから道なりを歩いていき、バスで二十分程の距離だった。携帯に視線を落とすと、右上に表示された時刻は23:56と表示されている。今から急げば終電には間に合うはずだ。


「拓馬、静香、行くぞ!」


 石畳の階段から唐突に立ち上がった僕を二人が見上げる。


「海月の次の行き先が分かった!」


 僕は意を決するかのように力強い口調を二人に向けた。

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