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第十四話

「おい、響一体どうしたんだ?」

「響、大丈夫?」


 肩を大きく震わせ嗚咽を漏らしていた僕のことを心配してくれたのか、背中に二つの手が触れた。


「分かったんだ。海月が……何で死のうとしていたのか」


 僕は泣いてることを隠すかのように顔を伏せ、両手で携帯を握りしめながら続ける。


「あの手紙は、海月が両親に書いた手紙は、出鱈目な内容なんかじゃない。海月はきっと…未来がみえるんだよ。自分が死ぬ未来をみたんだ。だから」 

「響、お前大丈夫か? そんな人間いるわけねぇじゃねぇか」

「そうよ、しっかりして!」


 僕は二人の放った言葉を聞きながら当然の反応だろうと思った。僕だってついさっきまでは同じ考えを持っていた。こんな荒唐無稽な話を信じろという方が無理がある。そんなことは僕だって分かってる。


 それでも、海月は違う。

 普通の人と違うという確信がある。


「夏休みに入る前の、平間先生の授業覚えてるか?」


 僕は服の袖で涙を拭った。そのあと二人に目を向ける。


「世界史の授業だろ?なんとなくだけど」

「あの時に平間先生も言ってたろ?世界には七十億もの多種多様な人がいるから未来をみえる人間がいてもおかしくないって」

「それは、赤坂が変な質問するから、平間先生だって仕方なく答えただけじゃねぇのか?」


 そう言ったあと、拓馬は呆れたような笑みを浮かべた。


「違う。海月はふつうじゃなかったんだ。拓馬、静香、思い出してみてくれ!きっと心当たりがあるはずだ。海月に未来がみえるはずないって決めつけるんじゃなくて、みえるかもしれないという方向で海月との記憶を重ねてみてくれ!」


 僕は二人の肩に手を置き、交互に視線を向けた。この夏の間、一緒にいた二人なら何か心当たりがあるかもしれない、そう思ったのだ。


 二人は頭を撚るようにして空を見上げていたが、しばらくして思い出したかのように静香が口を開いた。 


「そういえば私、お昼休みに一度海月に呼び出されたことがあって、前に一度海月の悪口を言ってた四人組を返り討ちにしてやったことあったでしょ?」

「あー俺がボコボコにしてやろうと思ってたら、静香に止められた時な?」 

「そう!それで次の日に海月に呼び出されて何の話かと思ってたら、三日後の午前11時にその子達に嫌なことを言われるけど絶対に言い返さないでって言われたの。私が何で?って聞くと、そしたら二年生になった時に静香はその子達にいじめられちゃうからって」


 記憶を手繰り寄せると、淡々と話し始めた静香の顔を僕はただ黙ってみつめていた。


「その時は、日時と時間まで何で知ってるの?って聞いたら、海月は風の噂で聞いたからって……あっ」


 静香は言い終えたあと口元を手で抑え、僕に視線を向けた。


「おかしいと思わないか?仮に三日後の午前十一時に静香に嫌なことを言ってやろうという奴の話を聞いたとしても、なんで来年の話まで出てくるんだ?そんな先のことまで決めていじめようとする奴はいないだろ?」


 僕がそう言うと、静香は黙って頷いた。


「そう言われてみれば、俺も響たちが三人で海の家に来てくれた時、ドリンクを買ってくれた海月にお釣りを渡そうとしたら、明日はお母さんに自転車に乗らないでって言ってって言われたんだ」

「それは何でなの?」


 拓馬の話を聞いていた静香が首を傾げてる。


「確か海月は、響から聞いたんだけどお母さんを見かけた時、自転車のタイヤがパンクしてたんだって。だから危ないでしょ?って言ってたけど、響お前が言ったんじゃないってことか?」


 僕は小さく首を横に振る。

 やっぱりだ、間違いない。どう考えても発言がおかしい。ふつうではない。恐らく、静香に関しては一年後にいじめられるという未来がみえ、拓真に関してはお母さんが自転車に乗っていて事故にあう未来でもみえたのだろう。


 海月は未来がみえるんだ。

 それは、改めて確信した瞬間だった。


「これは、まだ二人には話してなかったんだけど、おばあちゃんが亡くなる二日前に海月と二人で遊びに行って、おばあちゃんから小太郎を託された所までは話しただろ?」


 二人は僕をみて黙って頷いた。


「実は、その間にいろいろあったんだ。海月がおばあちゃんの代わりにお茶を入れてあげようとしていた時、突然目を大きく見開いたまま手にしていたトレイを落として放心状態になったんだよ。その後、海月におばあちゃんと二人だけで話があるからって言われて、僕は家の外で待ってたんだ。話してる間、海月は凄く悲しそうだった。そして、その二日後おばあちゃんが亡くなった」

「嘘だろ?」

「……嘘」


 ぽつりとぽつりと呟いた二人は、次の言葉を吐こうとして生唾と一緒に呑み込んでいるようだった。


「分かっただろ?海月はきっと未来がみえるんだ。だから、あの手紙通りなら」

「9月3日にステージ4の膵臓癌だと、宣告される」


 静香が僕の言葉を繋ぎ、山を作るようにして立てた両膝に顔を埋めた。


「嘘だろ?一体どうすればいいんだよ」

「分からない。とりあえず僕は海月とちゃんと話しがしたい」


 力尽きたかのように石畳の階段の段差に身体を預けた拓馬に僕がそう言った時だった。




 ポケットから身体に振動が伝わった。

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