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第八話

「響!」


 階段を駆け上がる音と共に、拓馬の大きな声が鼓膜に触れる。僕はホームで仰向けになり、穴の空いた屋根をみつめていた。


「追い付けなかった…。あと五分もすれば次の電車がくる。その電車に乗って追いかけよう。」


 未だに荒ぶったままの呼吸を宥めるように、普段よりゆっくりとした口調で言った。そのあと身体を起こし、二人に目をやる。背中についた砂埃を手で払ったあと壁に備え付けられた路線地図に手を添えた。


「向こう方面で海月の行きそうな所は…。どこだ?ちょっと待ってくれ、考えるから。」


 やっと海月に会えると思ったのに、その機会を逃してしまった。早く見つけないと最悪の結果になるかもしれない。そう考えると焦りと不安が込み上げてきた。


「待て響!とりあえず一回落ち着けって。」

「そうよ、一回冷静になって考えてみよ?」


 振り返ると、二人は諭すような目でこちらをみていた。額に滲んだ汗を手で拭い、僕は路線地図を手で叩きつけた。


「でも…早く見つけないと海月が…。せっかく会えると思ったのに…。くそっ!」

 そう言葉を吐き捨てると、拓真は僕の両肩をぎゅっと掴んだ。

「何でわざわざ海月は俺たちに連絡してきたんだと思う?きっと海月は俺たちを避けながらも、心の中では見つけて欲しいんだよ。さっき静香とホームに上がってくる前に話してたんだ。もし、この場所で海月と出会えなくても、また連絡が来るんじゃないかって。」


 確かに拓馬の言う通りだと思った。このまま連絡を絶とうと思えば出来たはずだ。わざわざ自分の居場所を伝えてまで、僕たちに連絡してきた理由。


 それは、僕たちに見つけて欲しいから?


 きっとそうだ。この夏の間、幸せを感じていたのは僕たちだけじゃないはずだ。海月だって、あんなに楽しそうにしてたじゃないか。教室に一人でいる海月に初めて一緒にご飯を食べようと言った時にみせた笑顔が昨日のことのように頭に浮かぶ。初めておばあちゃんの家に行った時も、四人で海で過ごした時も、そして花火を見た時だって、海月は溢れんばかりの笑みを浮かべてた。


 そうだ、あの笑顔は嘘なんかじゃない。


「二人ともありがとう、いろいろ考えてる内に冷静になれたよ。」


 拓馬と静香は安心したかのように口元を緩めている。


 でも、この先一体どうやって海月を見つければいいんだ?

 冷静に考えよう。冷静に。


 ぽつり、ぽつりと心の中で呟いている時、拓馬が口を開く。


「俺たちは今駅にいる。終電が無くなるまであと七時間もある。海月からの連絡が来てから咄嗟に動くのにこんなに適した場所はないと思う。次の連絡がくるかどうかは分かんねぇけど、せめて一、二時間は待ってみてもいいんじゃないか?」


 拓馬の放った言葉に静香が微笑みながら頷く。僕も写し鏡のように同じ表情を浮かべた。


「あぁ、そうしよう!」


 駅に備え付けられた電光掲示板には17時35分と時刻が表示されている。緑色に灯されたその光が少しずつ強くなっていった。

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