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くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第三章 夜空に咲く花、赤く乱れて、青く散って。。
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第十五話

 提げていた袋からプラスチックの容器に詰められた幾つもの食べ物を海月と静香が並べる。この場所に辿り着く前までに、とりあえず目に入った食べ物は買っていこうと拓馬が言い出し、僕たちのブルーシートの上は、さながら大人たちの宴会場のようになった。


「わぁ、最高!!屋台の焼きそばって何でこんなに美味しいんだろ。もう別格だよね。」

「えっ私も食べたい食べたい!」


 海月の口元に静香が箸で掴んだ焼きそばを運び、咀嚼しながら海月は親指を突き立てた。


 僕も最初に買ったフランクフルトを頬張る。歯で噛み切ると同時に肉汁が溢れ、それを包みこむようにケチャップとマスタードの酸味が口の中に広がった。


「うわっ、静香これも美味いぞ!」


 串に刺さったイカ焼きを噛みちぎると拓馬は満面の笑みを浮かべた。


 少しずつ満ち始めた夏の夜の下、幸せを噛み締めていた。かけがえのない仲間に囲まれて、ひとときの時間を過ごす。これを青春と呼ぶのだろうか。何一つ変わり映えのしないと思っていた僕の人生は突如動き出し、輝き始めたのだ。


「よし、花火まであと三十分か。そろそろ時間だな。」


 携帯に目を落とした拓馬がそう呟くと、静香と海月がブルーシートから立ち上がって拓馬の傍に身体を寄せる。二人ともなんだか子供のような悪戯な笑みを浮かべ、真っ直ぐに僕をみつめてくる。


 一体何なんだ?

 僕は首を傾げたまま三人を見返した。


 その時だった。


「せーっの!響、誕生日おめでとう!!」


 三人の合わさった高らかな声が夏の夜に響いた。

 僕は突然のことにぎょっと目を剥いて事態を把握することがまだ出来ていなかった。


 完全に忘れていたのだ。

 今日が僕の誕生日だということを。今まで生きてきて友達に囲まれて祝われたことなんて一度もなかった。中学の時は誕生日祝いで拓馬と映画を一緒にみるくらいだったのだ。


 うっすらと暗い中でも僕には三人の表情がよくみえた。溢れんばかりの微笑みを僕に向けてくれていたから。


 途端に嬉しさが込み上げてきて、胸の中が喜々の色で染まり始めた。


「ほんとに嬉しいよ!ありがとう!」

「喜ぶのはまだ早ぇよ。はい、これ俺と静香から。」


 今日一日ずっと肩から提げていた黒い鞄から取り出されたのは、白い紙袋だった。僕は、覗きこむようにして目を落とすと中には長方形の箱が入っていた。


「開けて…いいの?」

「おう。開けろ開けろ。」


 両手を小箱の端にそっと添えて、箱を開けると、中から黒い長財布が顔を覗かせる。手にしてみると、革製品であることが分かり、普段僕が使っているものよりよっぽどいいものだと分かった。


 それに、この財布には二人の気持ちが詰まってる、それが何よりも嬉しかった。


「ありがとう…。」

 心から溢れた声だった。

 二人の目をみて、自分の抱いた気持ちをしっかりと伝えた。


「じゃあ、次は私からね。」


 海月は僕のすぐ傍に腰を下ろすと、同じような紙袋を僕に手渡した。


 中には正方形の形をした黒い箱が入っており、外側にはピンク色のリボンが巻かれている。指で摘むようにしてするりとリボンを外し、箱を開けると中には腕時計が入っていた。


 大人の男性が身に着けるような形式的な作りで銀色が主体で出来ており、丸みを帯びた文字盤は水色に染まっていて夏の空のようだった。


 初めて貰う海月からの誕生日プレゼントは、飛び上がる程に嬉しかった。今、この時が、人生最高の瞬間だと思った。思いを寄せる女の子に、大切な友人に、他の人からすればただの暦にすぎないこの日を、僕の生まれた日を祝って貰える。こんなに幸せなことは他に思い浮かばない。気付けば僕は頬を濡らしていた。


「響泣いてるよ。そりゃ海月からのプレゼントだもんね。嬉しいよね。」


 いつもなら静香のからかうような言葉には反応していた僕だったが、今はそれをすることが出来なかった。嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのだ。


「腕出して?」


 艶のある長い髪を左耳に掛けながら、海月が言った。


 左腕を差し出すと、海月は以前お礼にとくれたミサンガをするりと外し、その場所には代わりに腕時計が巻かれた。重厚感のあるずっしりとした重みが左腕から伝わってきた。


「海月…ありがとう。拓馬と静香も本当にありがとう。凄く嬉しい…よ。嬉しくて今日は眠れないかも」


 三人への感謝の気持ちで胸が一杯になった。僕に向けてくれる眼差しは温かくて、この日々が永遠に続くことを思わず願った。


「このミサンガどうしよ、余っちゃうね。」


 海月の手のひらの上には、水色と黒色で編まれたミサンガが力無く横たわっている。


 僕にとっては、このミサンガも大切な宝物だ。海月が僕の為に時間をかけて編んでくれたのだから。


「そのミサンガ貸して?」

 僕は、海月の手のひらからそっとミサンガを掴み、左の足首に括り付けた。これならミサンガも居場所に困ることはない。


 僕が海月に満面の笑みを向けると、鏡のように海月も同じ表情を浮かべた。

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