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くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第三章 夜空に咲く花、赤く乱れて、青く散って。。
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第十三話

 花火大会は拓馬が働いている海の家がある海水浴場で開催されることになっている。


 夏休みということもあり、普段から最寄り駅は人で溢れ返っていたが、今日は比べものにならない程の人流が駅から海辺へと流れていた。


 前日の夜に待ちあわせは駅前にしようということになり、僕は夕暮れに染まる空を眺めていた。隣では拓馬が退屈そうに携帯に指を滑らせている。海月と静香は少し遅れてくるらしく、僕たちは人混みの渦に飲まれまいと、喫煙所のすぐ傍で佇んでいた。


 夏の淡く甘い空気に乗って、煙草の香りが紫煙の煙と共に流れてくる。ゆらりと揺れた煙が風に流れて夕焼け空に消えていった。


「それにしても遅いなあいつら。もう暑くて耐えらんねぇ。」

「まぁ、用意に時間が掛かってたなら仕方ないよ。」


 二人共、今日は浴衣を着てくるらしく着付けのスタジオに向かったが、同じように夏の思い出として浴衣を纏おうとする女の子達で一杯だったらしい。予約はしていたものの、店に入った時点で十五分程遅れると言われたと、静香からグループLINEを通して連絡をもらっていた。


 海月の浴衣姿をみるのは初めてだった。

 どんな感じになるんだろうと思い浮かべるだけで胸が高鳴り、こうして待っている時間も全く苦じゃなかった。


「それにしても、よく今日バイト休めたな。海の家とか絶対忙しいんじゃないの?」

「あー余裕余裕。高校生のたった三回しかない貴重な夏休みの思い出を作りたいんですって言ったら、店長も心よく許してくれたよ。」


 紺色のカッターシャツの腕を捲りあげ白い歯をみせて拓馬はにっと笑う。


 確かにそう言われてしまえば強く言うことは出来ないだろう。拓馬の世渡り上手な所も僕が見習わなければならない所の一つだろう。


 その時、夏の淡い風が吹いて風鈴がちりんと鳴った。


 駅の中には夏の風物詩コーナーというものが改札を抜けてすぐのところに特設されており、涼しげだなと思ったことを思い出した。


 駅の方に視線を向けると、見覚えのある二人の顔がこちらに近づいてくるのがみえた。その二人も僕をみると、薄暗くなり始めた辺り一面を明るく染めるかのような笑顔を咲かす。


 海月と静香だった。


 胡蝶蘭が咲き乱れる白い浴衣に身を包んだ海月は、髪を結いピンク色のかんざしを頭にさしている。静香は、牡丹の花があしらわれた赤い浴衣に身を包んでいた。二人とも乱れなく結われた髪型は、頭の先から足先まで気品の漂う美しさを象徴するかのようだった。


 あまりの美しさに僕は息を呑み、上手く言葉を口にすることが出来なかった。


「どう?浴衣着るのなんて久しぶりだから緊張しちゃった。」

「き…綺麗だよ。凄く…綺麗でびっくりしちゃった。」


 僕は、まさにしどろもどろという言葉を体現したかのような状態になってしまう。


 でも、そんな僕の言葉を海月は喜んでくれたのか、夏の淡い風にそよがれ浴衣の袖を揺らし目を伏せた。


 その後、咲いた笑顔を隠すかのように両手で顔を覆い、僕はその仕草に魅せられて鼓動が早くなった。

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