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くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第三章 夜空に咲く花、赤く乱れて、青く散って。。
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第十一話

 石畳の階段から見下ろすこの街は、夕暮れにすっぽりと埋まっていた。


 犬小屋は僕が持ち、拓馬が小太郎のリードを引いている。


 僕はスーツ姿の男性から小太郎を託された時、直前になって気が引けてしまった。おばあちゃんが実の我が子のように世話をしていた小太郎は、いわば形見のようなものだろう。おばあちゃんの家族の人たちと比べれば、昨日今日出会ったばかりの僕が預かってもいいのだろうかという考えが頭の中で芽を出したのだ。


 だが、その考えを伝えると、スーツ姿の男性は途端に優しげな表情を浮かべた。


「いいかい?母は僕たちではなく、君に小太郎を託したんだ。父が亡くなってからというもの、人と触れ合うことを嫌っていた母が君たちには心を許していたのだとよく分かる。そうでなければ、家に迎え入れるはずがないからね。だから、僕は母の意思を尊重してあげたい。君が迷惑じゃないなら、どうか預かってやってくれ。」


 言い終えると、スーツ姿の男性はすっと頭を下げた。その後、周りにいた大人の人たちも続いた。


 僕は男性の言葉に胸を打たれ、溢れ出る感情と共に流れる涙を拭った。そして、「絶対に…大切に…育てます!」と途切れ途切れになりながらも、強い意思を伝えた。


 男性はそんな僕をみて、満足気に微笑んだ。


 帰り際に僕たち四人はおばあちゃんへの感謝の言葉を一人ずつ棺の傍で口にして、家をあとにした。


 今でも信じられない。

 おばあちゃんが亡くなってしまったなんて。

 これで本当にお別れなんだろうか?


 僕は何気なく振り返りおばあちゃんの家へと目を向けた。いつもと同じはずなのに、心做しか家の周りが暗くみえる。


 ゆっくりと顔を伏せ再び歩みを進めようとした時、重なり合う四つの影がおばあちゃんの家へと向かって伸びていた。まるで別れを惜しみ手を伸ばすかのように。


 「きついな…。」


 ただぽつりと呟いた拓馬の言葉は夕焼けに染まる空の彼方へと消えていく。


 僕たちはその後、一言も発することなく帰路についた。





 生きてる間に、誰かを見送ることになるなんて思いもしなかった。やっぱり人の死を目の当たりにすることって辛い。辛いよ。辛すぎる。もし、私が死んだら、響や拓真や静香も、今の私と同じような気持ちになっちゃうのかな。そんなの絶対に嫌だ。あの三人には前へと進んで欲しい。幸せになって欲しい。


 人の一生は、よく花に例えられる。一生を終えると、花びらを散らす。残された人達は、その散った花びらを大切に拾い集めて、胸に仕舞って、誰かを想うのかもしれない。じゃあ、その花びらすら無かったら。痕跡を残すことなく、この世を去ることが出来たら。


 残された人達は、悲しみに暮れることなく、前に進めるんじゃないだろうか。


 そう考えたら、私はやっぱり、くらげになりたい。

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