第三話
あれから二、三十分は経っただろうか。
僕の肩で泣き続ける海月をおばあちゃんと二人で見守っていた。その間におばあちゃんは割れた急須も片付けてくれた。「僕がやります!」と何度も言ったが、おばあちゃんは「今はその子を慰めておやり」と同じ数だけ返され、その言葉に甘えさせてもらった。海月が落ち着くまで、何かを話してくれるまで、ずっとそうしていようと思った。海月が振り絞るように声を放ったのは、そんな時だった。
「今日はもう、帰りたい」
僕の胸元で泣き続けていた海月がゆっくりと顔をあげた。僕は、見下ろすような形でみる。目は赤く染まり、未だに涙の膜がうっすらとそれを覆っていた。海月がそれを望むなら今日はそうしてあげた方がいいのかもしれない。
──無理に聞き出すなんて野暮な真似するんじゃないよ。
──ただ傍にいてあげるの。
僕がその考えに至ったのは、おばあちゃんと母の言葉が頭の中にほわりと灯ったからだ。
「わかった、じゃあ帰ろうか。おばあちゃん今日は帰ります」
僕がそう言うと、おばあちゃんはにっこりと微笑んだ。椅子の下に置かれた海月の鞄と自分の鞄を肩にかけドアノブに手をかけた時、何かが聴こえた気がした。小さすぎてよくは聞き取れなかったが、海月が何かを呟いた。そんな気がした。
「何か言った?」
そう問いかけると、海月は小さく頷く。
「おばあちゃんと二人で少し話しがあるから外で待ってて」
か細く消え入りそうな声だった。言葉を紡ぐのも精一杯だという感じで、両の目は再び潤み始めているように感じた。
「分かった。じゃあ外で小太郎の傍にいるよ」
「……ありがとう」




