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くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第二章 波の狭間に見据える未来
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第九話

「わぁ、凄い!見えてきたよ!」


 静香は、興奮気味に声を高くし両手を合わせた。


 僕も静香がみるその先に視線を送る。駅から歩いて十分程。潮の香りを含んだ風が鼻腔をかすめ、目の前には真っ白な砂浜が広がった。その奥には陽の光を受け止めて星のように瞬き、空の色を映した水平線が続いてる。

足元の砂は歩くたびに僕の重みの分すっと沈むが真綿を踏みしめているような感覚だった。波打ち際に近づくにつれ、砂をさらう波の音が大きくなる。久しぶりにみた海に心が踊った。


「とりあえず、まずは拓馬の所に行くか。」


 僕がそう言うと、静香は笑顔で頷いた。


 5分程歩き、拓馬の働く海の家を見つけた。木造建ての小さな建物に、入口にはサーフボードが立てかけられており、アトランタと店の名前が書かれている。その建物の周りには白色に塗装されたテラス席が4席程あったがすでに満席のようだった。


「拓馬いるかな?」

「どうだろ?中にいるのかもな」


 僕たちは砂浜から店の中へと視線を向ける。すると、水色の飲み物が入ったおしゃれなグラスをトレイに載せて丁寧に持つ拓馬が出てきた。


「拓馬!」


 声をかけると、拓馬も僕たちに気付いたのか口元を緩めた。


「とりあえず僕たちも何か買いにいこうか?」


 後ろにいる静香にそう声を掛け、僕たちも列に並んだ。二十人弱は並んでいるだろうか。このうだるような暑さの中、待つのは少々気が引けたが、拓馬の門出に少しでも貢献してあげたかった。額から汗が滲み、今日の為に新しくおろした白いシャツは既に汗で張り付いていた。


 あまりの暑さにいよいよ弱音を吐いてしまいそうな時、遠くの方から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。続けて静香の名前も呼ぶその声は甘く優しげな声だった。


 視線を向けると、真っ白な砂浜に立つ海月の姿があった。白のワンピースに身を包み、肩から先は透き通るような白い肌があらわになっていた。艶のある長い髪は潮風に撫でられ静かに揺れた。海月の周りを包む何もかもが眩む程の白さがあり、僕は天使を見るかのような心地になった。


 僕たちの並ぶ列に加わるまでに何人もが海月をみつめていた。無理もないだろうと思った。砂浜に映えるその姿は言葉には言い表せない程に美しかったのだ。


「響、静香、ごめんね。寝坊しちゃって急いで用意してきた」

 陽だまりのような笑顔を向けられて、僕の鼓動は途端に早くなる。


「ぜ……全然。僕たちもさっき着いたばかりだし」


 緊張で上手く舌が回らない。海月を前にするとどうして僕はこんなに上がってしまうのだろうか。そんな風に僕の心が大きく波を打っていることすら知らない海月は、静香と「その服めちゃくちゃ可愛い」と盛りあがっている。


 10分程待った所で僕たちの番がきた。

 赤いTシャツに海パン姿の拓馬が「何にする?」と聞いてくる。


 僕が「じゃあおすすめで」と言うと、「初日の俺におすすめなんか聞くなよ」とぎこちない笑みをみせた。


 結局僕たちは焼きそばを一つとポテトを二つにかき氷を三つ買った。丁度、テラス席が空いた頃合いだったのでタイミング的には良かったのかもしれない。


 木であしらわれた網目状のテーブルの真ん中からはパラソルが伸びていて、日差しが遮られる分、少しだけ涼しく感じた。


「えっめちゃくちゃ美味しいんだけど!」

 焼きそばを啜った静香が歓喜の声をあげた。私にも頂戴と言って海月も横から箸を伸ばしている。でも、二口程食べたところで海月は箸を置き「私はもういいから、後は二人で食べて」と笑みを浮かべた。


「なんで?海月ほとんど食べてないじゃん。あっほら、ポテトもあるよ」


 僕が摘んでいる舟の形をした受け皿に山盛りに積まれたポテトを静香が指を指すが、海月は小さく首を振りほんとにお腹いっぱいなのと言う。不思議そうにみつめる僕たち二人をみて、「暑いからかな、夏バテかも」と視線を海に投げた。


「まあ確かにこの暑さじゃ食欲も無くなるよね。響がじゃあ海月の分もしっかり二人分食べてよ。拓馬のお店のご飯だし残すの悪いじゃん」

「うん、今日の為に朝も抜いてきたし全然余裕」

 僕は小さな嘘をついてから拓馬の店の方へと視線を向ける。


 今も拓馬の店は列が途切れることなく大繁盛している。丁度、拓馬はソフトクリーム二つを水着姿のお姉さん達に手渡している所だった。仕事にも少しずつ慣れてきたのか、自然な笑みを浮かべれているようにみえる。


「拓馬楽しそうで良かったよな。」


 僕はその姿を見ながらぽつりと呟く。

 すると、僕の送る視線の先をみた静香は「あいつ、何ニヤニヤしてんの。バッカみたい!!」といい放ち席を立つあがった。


「ちょっとトイレ!」


 強い陽を背中で受け止め、拓馬が接客している真横を通り過ぎて静香は店の中へと消えていった。


「あいつ何怒ってんだよ。なんかあったのか?」

「響ってほんと鈍いよね。」


 海月は机の上で頬杖をつきながら僕に一度視線を送り、溜息を溢した。


「鈍いって……何が?」


 どういうことだ? 

 何が鈍いんだろう?

 僕が頭を悩ませていると、海月は水平線の向こうに視線を置いて「いつか大人になったら分かるよ」とぽつりと呟いた。

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