第八話
夏休みが始まってから一週間が経とうとしていた。海月とは連日のように会っている。あの日、海月が死のうとしていた理由を知ってしまったような気がして、僕と会うことで少しでも気分が紛れてくれたらという想いで毎日何かしらの理由を取り付けては誘っている。出来ればもう一度海月の家に出向きお母さんに謝罪をさせて欲しいと何度も頼んではみたが、お母さんはもう怒ってはないしむしろ響に謝っている、でも何かのきっかけでまた言い合いになってしまうかもしれない、だからお互いの気持ちが落ち着くまでは待って、とその度に諭され、僕は海月のお母さんに謝れずにいた。
僕は僕で思うことはあるが、海月のお母さんの感情を逆撫でするような発言ばかりしてしまったのも事実だ。いつか必ず、ちゃんと目をみて謝ろう。その思いを胸に秘め、僕は駅の階段を降りていった。下から吹き抜けてくる夏の乾いた風に前髪が梳かれて、鼻腔に淡く甘い匂いが運ばれる。改札を抜けた先では、白いノースリーブのカットソーに水色のスカートを纏った静香が立っており、僕の姿をみつけた静香は右手をあげる。
自宅の最寄り駅から二駅。海水浴場が近いということで夏の時期になると乗客の乗り降りが激しいこの駅は、近辺にある駅に比べると比較的に綺麗に整備されている。
僕は、黒いハーフパンツに白いシャツで身を包んだ。上半身の服はこの日の為に新しく卸したこともあり、袖を通すとパリッとした質感が肌に触れた。心做しか気持ちもさっぱりとする。
「おはよう」
「あれ、海月は?」
「なんかちょっと遅れるみたいで先に行ってって言ってた」
今日は拓馬が働き始めることになった海の家の初出勤の日だ。僕たちは応援がてら三人で久しぶりに海に行こうと前日に予定を立て、海月とはいつもの駅のホームで待ちあわせていたが、時間になっても姿を現さないので僕が電話を掛けると寝坊したうえに用意に時間がかかっているから先に行って欲しいとのことだった。
「じゃあ先に行こっか!海とか久しぶりだから楽しみ過ぎるんだけど!」
子供みたいにあどけない笑みを溢す静香をみて僕も自然と同じ表情を浮かべた。




