表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第二章 波の狭間に見据える未来
21/68

第六話

 水族館をあとにした僕たちは、ゆらりゆらりと電車に揺られていた。窓の向こうで流れる景色は映画を早送りにしているかのようで、僕はそれに目をやりながらも頭の中はこの先のことでいっぱいだった。隣には海月がいて、僕は平然を装いながらもどうしてこんな事にと頭を抱えたくなる衝動を必死に抑えていた。僕が勢いで口走ってしまった話の流れで海月の家へと向かうことになったのだ。海月を家まで送り届けた事は何度もあるが、家に入ったことはない。女の子の家にあがることも僕は初めてだ。それに、海月のご両親に好意を抱かれていない事もなんとなくは分かっていた。海月は「全然大丈夫だよ」と言うが、本当にそうなのだろうか、家にさえ入れてくれなかったらどうしようと、不安で膨らみ続ける胸は、はち切れそうだった。


 女性の姿がみえなくなったあと、海月には「響にも嫌な思いさせちゃったよね。ほんとにごめん」とちいさく頭を下げられた。寸前まで大人の女性に詰め寄っていたとは到底思えないようなその姿をみて、僕は「なんであんなことをしたの?」と尋ねずにはいられなかった。水族館のすぐ傍には、砂場とブランコと木製のベンチが一つだけある小さな公園があり、僕たちはそこに腰をおろすことにした。


 ためらいながらも、何故あんなことをしたのかと少しずつ話し始めた海月の話を聞いている内に、妙に納得してしまった。海月のご両親は海月に対する愛がかなり強いらしく、行動一つにしても制限されることが多々あるようだった。門限があるのは勿論のこと、毎日誰と何を話し、何をしたのかという事を報告しなければならず、自分達の作り上げた娘像のようなものから少しでも海月が逸脱しようものならすぐに軌道修正しようとしてくるらしい。自分は両親の娘ではなく人形なのかもしれないと思ったことがあると、うっすらと笑みを浮かべながら海月は言った。そんな風に自分が扱われているからこそ、子供から目を離す親なんて到底受け入れることが出来ずに、あの時はつい強い口調になってしまったらしい。僕は聞きながら以前学校で会った海月のお母さんを思い浮かべていた。確かにあの人ならそんな風に海月を扱ったとしていてもなんら不思議ではない。


「こんな事を響に言うなんてどうかしてると想うけど、お母さんは私の生理の日付けまで把握しようとしてくるんだよね」

「そ……そうなんだ」


 僕はどう言葉を返したらいいのか分からなかった。


「私の着る服装や成績、それから私がどう生きるかということから生理の日付けまで、子供の時からずっとそれを両親に管理されて生きてきた。私は、何なんだろうね」


 言い終えて、顔を伏せた。夏の乾いた風がそんな海月を慰めるかのように優しく髪を撫でている。


「海月は、嫌じゃないの?」

「えっ?」

「だから、そんな風に何から何まで親に管理されることが嫌じゃないの?」

「分からない」


 そうぽつりと呟いた海月をみながら「嘘だ」と言った。


「その話をしてる時の海月は凄く辛そうだよ」


 言いながら、あの日のことを思い出していた。


──今から一ヶ月。この夏が終わるまでに、私が死のうとしていた理由を見つけて。


 駅のホームで海月は、そう言った。もしその理由が、両親に自らの人生全てを管理され、娘ではなく人形のようだと思えることがきっかけだったら。もしそうなら、今すぐに対処するべきだ。


「僕が言ってあげる。海月のことを大切に思っているなら、その海月自身の気持ちを最優先に考えてあげて下さいって僕が言うよ」


 だから、夏のひかりをめいいっぱいに吸い込み、海のように瞬くその瞳をみながらそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ