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くらげの足跡は瑠璃色の空へと続く。  作者: 深海かや
第二章 波の狭間に見据える未来
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第二話

 石畳の階段を登り切ると、ふわりと森の匂いが鼻腔をかすめる。天然の冷蔵庫のようにひんやりとした空気を身に纏い、森の奥へと奥へと足を進め、チャイムを押す。


「おや、今日は四人お揃いかい。入りな」


 少しだけ腰の曲がったおばあちゃんの背中が家の中へと消えていくのを見てから、僕たちも足を踏み入れる。


 拓馬は相変わらず小太郎とじゃれ合っていたので、僕が拓馬を呼んだ。窓の向こうでは、拓真が小太郎の頭を優しく撫でており、「じゃあな」という声が小さく聴こえた。


「小太郎はあの子にすっかり懐いてるね。あの子と小太郎がじゃれる姿をみていると思い出すよ、あんた達が初めてこの家に来た時のことを」


 テーブルの上にコーヒーを四つ並べたあと、おばあちゃんは目を細めた。静かな声と蝉時雨が鼓膜を揺らし、グラスに入った氷が、からんと、音を立ててコーヒーに浸った。


 僕もその氷をみていると、あの日のことを思い出す。未だにセピア色に染まることのない鮮明な記憶を。


 桜の花びらが散り、葉桜に移り変わる頃だった。


 その日は、僕と拓馬と静香の三人で近くで溜まり場になりそうな場所でも探そうと高校の近辺を歩き回っていた。


 まだ高校に入学したばかりでお金も少ない僕たちは、毎度毎度カラオケや喫茶店で溜まる訳にも行かず、公園でもあればいいなと思い歩いていると、この場所に辿り着いた。


 森のアーチを通り抜けると目の前には巨大樹がそびえ立っており、傍にはベンチがあった。そして、その巨大樹の真下には木造の小さな民家がひっそりと佇んでいた。さながら映画にでも出てきそうな程の綺麗な景観と落ち着く雰囲気は、僕たちの胸を踊らせた。


 だが、ベンチに腰を下ろし、しばらく話し込んでいると、急にバケツをひっくり返したような雨が降り注ぎ、知らない人の民家で雨宿りするわけにはいかないと思った僕たちは、木が密集している辺りで雨を凌ごうとした。


 葉や枝が生い茂っていたその場所は確かに雨よけにはなった。でも、足元に堆積した枯れた葉っぱや土が雨で濡れると滑りやすくなることまで僕たちは考えていなかったのだ。


 一瞬の出来事だった。「寒いな」とぽつりと呟いた拓馬が、足を滑らせ真下に流れる小川に向かって五メートル程の斜面を滑り落ちていったのだ。静香は叫び声をあげ、僕も一瞬何が起こったのかを把握するまでの時間を要したが、急いで拓馬の元へと駆け寄った。


 拓馬は落ち葉にまみれており、唸り声をあげていた。大丈夫か?と声をかけ、どこか怪我でもしてないかと頭からつま先へと視線を向けると、左足の制服が破れており、中から真っ赤な鮮血がみえた。


 僕は急いで制服を破り、傷の具合を確かめる。すると、膝下から足先にかけて亀裂のような傷跡があり、雨に溶けながらも真っ赤な血が滴るように流れていた。


 まず救急車を呼ばなければと真っ先に頭に浮かんだ。だが、成り行きでこの場所に来たせいで助けを呼ぼうにも正確な場所を伝えることが出来ない。


 僕は頭を抱え、静香をみた。静香も気が動転しているようで悲痛な顔を歪めしゃがみ込んでいた。


 どうしたらいいんだ。

 僕は必死に知恵を、知識を、頭の中から絞り出そうとしていた。


 その時、近くで犬の鳴き声が聞こえた。

 雨音は周りの音を掻き消す程に強く地を打ち付けていたが、その犬はそれすらも凌駕する程に力強く吠えていた。


 おばあちゃんが僕たちの元へと来てくれたのは、それから間もなくしてからのことだった。


 後から聞けば、小太郎という名のその犬が僕たちが助けを求めているのを教えてくれるかのようにおばあちゃんを導いてくれたらしい。


 比較的に安全に登れる地をおばあちゃんに教えてもらい、拓馬に肩を貸しながら歩いていた僕に「応急手当はするから入りな」とおばあちゃんはぽつりと呟く。


 僕たちはその時初めておばあちゃんの家に足を踏み入れた。


 消毒液で患部を消毒したあと、袋にいれた氷をその周りに当てた。


 その間に、静香はおばあちゃんに促され救急車を呼び、拓馬は十三針を縫う大怪我を負ったが、事無きを得たのだ。


 これが、僕たちとおばあちゃんの出会いだった。

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