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追放された令嬢は、辺境で素材屋を営む  作者: 秋月 もみじ


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8/10

第8話 襲撃イベント発生 → 顧客たちが激怒


 草木も眠る丑三つ時。

 辺境都市ベルフォートの夜は、荒野の風音だけが響く静寂に包まれていました。


 ですが、私のアークライト素材店には、まだ明かりが灯っています。

 私は厨房で、大鍋をかき混ぜていました。


「ふふふ……いい香りです」


 鍋の中でグツグツと煮えているのは、紫色の液体。

 メイン食材は「マンドラゴラの絞りカス」と「ヒュドラの肝」です。

 一般的には劇薬の材料ですが、弱火で六時間煮込むと毒素が抜け、滋養強壮に効く濃厚なスープになります。

 徹夜作業のお供には最適なのです。


(さて、そろそろ火を止めないと、鍋底が溶けてしまいますね)


 私が味見用のスプーンを手に取った、その時でした。


 パリンッ!!


 静寂を切り裂く、激しい音。

 店先のショーウィンドウが割られる音でした。

 続けて、ドカドカと乱暴な足音が複数、店内に雪崩れ込んできます。


「動くな! 騒ぐと殺すぞ!」


 野太い怒声。

 私が厨房から顔を出すと、黒い覆面をした男たちが五、六人、抜き身のナイフを持って立っていました。

 強盗です。

 いえ、彼らの手には松明と、異臭を放つ油の壺が握られています。

 放火魔も兼任のようですね。


「……あの、土足で上がらないでいただけますか? 昨日ワックスを掛けたばかりなのですが」


 私がスプーンを持ったまま注意すると、男の一人が目を剥きました。


「あぁ!? 寝ぼけてんのかこのアマ! 店ごと燃やされたくなかったら、大人しくこっちへ来い!」

「燃やす? ああ、その油で?」


 男が松明を掲げ、陳列棚に油をぶちまけようとしました。

 私はあわてて止めました。


「無駄ですよ。その棚も壁も、『サラマンダーの粘液』を混ぜた耐火塗料でコーティングしてありますから」

「はあ?」

「発火点が一五〇〇度以上なので、そんな安物の松明じゃ焦げ目もつきません。油代の無駄です」


 私が真顔で説明すると、男たちは顔を見合わせました。

 そして、リーダー格らしき男が舌打ちをして、私に向かってナイフを構えました。


「チッ、口の減らねぇ女だ! なら、痛い目にあわせて連れて行くまでだ!」


 男が踏み込んできました。

 鋭い切っ先が、私の喉元へ迫ります。


(危ないっ!)


 私が身構え、護身用の「劇薬瓶」に手を伸ばそうとした瞬間。

 視界の端で、店の床板がバコン! と跳ね上がりました。


「……んあ? うるせえぞ」


 床下からヌッと現れたのは、ボサボサ頭の男。

 眠そうな目をこすりながら、巨大なバトルアックスを抱えています。

 Sランク冒険者、「豪腕」のガイルさんです。


「へ?」


 強盗が動きを止めました。

 次の瞬間、今度は天井板が外れ、梁の上から影が落ちてきました。


「まったく、リリア嬢のスープが出来上がるまで仮眠を取っていたのに……」


 着地と同時に双剣を構えたのは、「疾風」のレンさん。

 さらに、樽の中から、棚の裏から、次々と武装した男たちが現れます。


「な、なんだお前らは!? どこから湧いてきやがった!」


 強盗たちが悲鳴を上げました。

 私も聞きたいです。

 私の店、いつから忍者屋敷になったんですか?


 そして、最後に。

 店の奥、用心棒用の控え室から、漆黒のオーラを纏ったサイラス様がゆっくりと歩み出てきました。

 手には愛剣「黒魔鋼」が握られています。

 鞘から抜かれていないのに、漏れ出す魔圧だけで空気が歪んで見えました。


「……俺の安眠を妨害し、あまつさえリリアに刃を向けた万死に値する愚か者は、どいつだ?」


 地獄の底から響くような声。

 強盗たちの顔から、一瞬で血の気が引いていきます。


「く、黒の剣士!? なんでこんな所に!」

「逃げろ! こいつら全員、賞金首クラスのSランクだ!」


 強盗たちが我先に逃げ出そうとします。

 しかし、遅すぎました。


「逃がすかよ!」


 ガイルさんのバトルアックスが旋回し、逃走経路を塞ぎます。

 レンさんの双剣が閃き、男たちの武器を弾き飛ばします。

 一方的な蹂躙でした。

 戦闘時間は、わずか十秒。

 強盗たちは全員、白目を剥いて床に転がされていました。


「……ふう。片付いたな」


 サイラス様は剣を納め、気絶したリーダー格の男の胸倉を掴み上げました。

 そして、パチンと頬を叩いて目を覚まさせます。


「ひぃっ! 助けてくれ!」

「質問に答えろ。誰の差し金だ?」


 男は震え上がり、失禁寸前です。

 目の前にいるのは、魔王より恐ろしいと言われる男ですから無理もありません。


「い、言えねぇ! 言ったら殺され……」

「今ここで俺に八つ裂きにされるのと、どっちがいい?」


 サイラス様が、男の耳元で甘く囁きました。

 男は即座に叫びました。


「聖女ミアだ! ミア様が『あの汚い店を燃やして、女をさらってこい』って! 金は弾むからって!」


 ……ミア様。

 その名前が出た瞬間、店内の空気が凍りつきました。

 ガイルさんも、レンさんも、そしてサイラス様も。

 全員が、静かな、しかし強烈な殺気を放っています。


「ほう……聖女、か」


 サイラス様は男をゴミのように放り捨てました。

 その瞳には、琥珀色の炎が揺らめいています。


「一国の聖女が、裏社会を使って民間の店を襲撃した。これは単なる犯罪ではない」


 彼は私の方を振り返りました。

 その表情は怒りに満ちていますが、私に向ける視線だけは穏やかでした。


「リリア。お前は隣国ガルディア王家の『賓客』だ。俺がそう認定した」

「えっ、いつの間に?」

「今だ。つまり、この襲撃はガルディア王国に対するテロ行為であり、宣戦布告とみなす」


 話が大きくなっています。

 国際問題です。

 でも、サイラス様の背中には、有無を言わせない王者の風格がありました。

 ……そういえば、彼はただの冒険者ではないのでしたね。


「ガイル、レン。こいつらを縛り上げて、領主の館へ突き出せ。『聖女の命令書』も吐かせろ」

「へいへい。追加報酬は期待してるぜ」

「リリア嬢のスープ一杯で手を打とう」


 冒険者たちがテキパキと事後処理を始めます。

 私は呆然と、スプーンを持ったまま立ち尽くしていました。


「……あの、皆さん」

「どうした、怪我はないか?」


 サイラス様が心配そうに駆け寄ってきます。

 私は首を振って、鍋を指差しました。


「怪我はありませんが……その、こんな夜中にお腹が空いていたんですか? スープ、飲みます?」


 私が尋ねると、強面たちの顔が一斉に輝きました。


「飲む!!」


 ……どうやら、彼らが床下に潜んでいた理由は、私の安全確保半分、夜食半分だったようです。

 マンドラゴラスープの香りに誘われた妖精さんたち(マッチョ)ですね。


「まったく、お前は……」


 サイラス様は呆れたように笑い、私の手からスプーンを取り上げました。

 そして、自然な動作で私の髪に付いた煤すすを払ってくれます。


「危機感が足りない。だが……守れてよかった」


 その声の優しさに、私の胸がトクンと鳴りました。

 王都では「汚い」と避けられていた私が。

 ここでは、こんなにも強く、温かい人たちに囲まれている。

 その事実が、何よりも私の心を温めてくれました。


「ありがとうございます、サイラス様」


 私は微笑み返しました。

 外では、捕まった男たちが衛兵に引き渡されていきます。

 これで、王都側の悪事は白日の下に晒されるでしょう。


 聖女ミア様。

 あなたは火遊びが過ぎましたね。

 私の店の壁は燃えませんが、あなたの立場は、今夜のことで消し炭になるかもしれませんよ?


 鍋からは、相変わらず滋養強壮に効く、少し土臭い湯気が立ち上っていました。

 さあ、夜食タイムです。

 明日の戦い(主に対王都の外交戦)に備えて、精をつけてもらいましょう。

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