11話
哲也視点
夜のディープブルー。レコードの音が静かに流れる中、私は3人を前にして口を開いた。
「俺は、元カノと結婚することにした。店も、畳むつもりだ」
言葉にすると、胸の奥で固まっていたものが少しだけ軽くなった。長い沈黙の中で考え続けてきた答え。彼女と再会して、過去と未来を繋げる決意をした。ディープブルーは、私にとって大切な場所だった。けれど、これからは違う形で生きていく。
3人の顔が揺れた。驚き、戸惑い、そして言葉を失った表情。私はそれ以上何も言わず、ただ微笑んだ。沈黙が、最後の返事だった。
---
佳奈子視点
哲也さんの言葉を聞いた瞬間、胸の力が抜けた。智美も美雨も同じだった。3人とも、急激な脱力感に包まれた。
「結婚…店を畳む…」
智美が呟く。
「そんな急に…」
美雨が言葉を探す。
私はただ、笑うしかなかった。笑いながら、涙が滲んだ。失恋したわけでもないのに、心が空っぽになる。
「私たち、何してたんだろうね」
私は鍋の箸を置いた。
「入り浸って、妄想して、青春だって言って…」
智美は「でも、楽しかったよ」と笑い、美雨は「そうだね。全部、青春だった」と静かに言った。
3人で肩を寄せ合いながら、急激な脱力感を抱えたまま夜を過ごした。ディープブルーの灯りが消える未来を思うと、胸が痛んだ。けれど、確かにここに青春があった。
---
エピローグ ― 下北堂夫婦視点
あの子たちが肩を落として鍋を囲む姿を、私たちは静かに見守っていた。智美も佳奈子も美雨も、まだ若い。恋も仕事も、これからいくらでも転機が訪れる。
「青春だねぇ」
母が呟く。
「そうだな。悩んで、泣いて、笑って…全部が糧になる」
父が頷いた。
3人の背中は少し丸まっていたけれど、湯気の向こうに確かに未来が見えた。看板娘の智美は、きっとまた笑顔を取り戻すだろう。佳奈子は明るさで道を切り開く。美雨は静かな強さで新しい場所へ進む。
親心としては、ただ願う。――この子たちが、それぞれの道で幸せを見つけますように。
鍋の湯気が立ち上り、昭和チックな食堂の灯りが3人を包み込む。その姿を見ながら、私たちは静かに微笑んだ。




