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シモキタ・ディープ・ブルー  作者: 双鶴


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10話

美雨視点



不思議なことに、時が重なることがある。


佳奈子は常連客から突然告白され、智美には親戚からお見合い話が舞い込んだ。そして私には、会社から転勤の内示。3人とも、何かの分岐点に立たされている。


「なんで私だけ恋愛じゃないの」

私は鍋をつつきながら嘆いた。佳奈子は「でも転勤って人生の大きな転機だよ」と慰め、智美は「お見合いだって、まだ決まったわけじゃないし」と笑った。けれど、3人とも心の奥では「哲也さん」の存在を意識していた。


それからというもの、私たちはディープブルーに入り浸るようになった。仕事帰りも、休日も、理由をつけては店に集まる。服を眺めるふりをしながら、視線は自然と哲也さんに向かう。


「今日も来ちゃったね」

佳奈子が笑う。

「だって落ち着くんだもん」

智美が頷く。

私は黙って服のハンガーを揺らしながら、哲也さんの横顔を盗み見た。


3人とも、沈黙の人に惹かれているのを自覚している。けれど、それを口にすることはない。ただ笑い合い、店に通い続ける。


哲也さんは、そんな私たちの様子に少し戸惑っているようだった。服を整える手が、いつもよりぎこちない。レコードの針を落とす動作も、ほんの少し遅れる。私たちが笑い声を上げるたびに、彼は視線を逸らし、微笑みで誤魔化す。


「ねえ、哲也さん、今日のおすすめは?」

佳奈子がわざと声をかける。

「このジャケット、似合うかな?」

智美が試着室から顔を出す。

私は「写真、また撮りましょうよ」と提案する。


3人の言葉が重なり、店内は賑やかになる。けれど哲也さんは、返事をせずにただ微笑む。沈黙の中に、戸惑いが滲んでいた。


恋心を刺激されすぎて、ちょっと歯止めが効かない。3人とも、沈黙の人に惹かれているのを知りながら、ますます店に通ってしまう。


転機を迎えた3人の心は、同じ場所に集まっていた。哲也さんの沈黙の微笑み。その余白に、私たちはどうしても惹かれてしまうのだ。


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