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シモキタ・ディープ・ブルー  作者: 双鶴


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9話

智美視点



ネット販売を始めてから数週間。注文は毎日少しずつ入ってくる。爆発的な売れ行きではないけれど、まずまずの成果だ。画面に並ぶ数字を見て、私は「悪くないね」と思った。


けれど、思わぬ副産物があった。撮影の舞台に使った下北堂が、ネット上で話題になったのだ。昭和チックな食堂の雰囲気、木のテーブル、湯気の立つ鍋。そして「看板娘」として写り込んだ私の姿。無邪気に笑っている写真が「かわいい」「懐かしい雰囲気」とコメントされ、下北堂そのものが人気になっていた。


サイトのレビュー欄にはこんな声が並んだ。


• 「服もいいけど、背景の食堂が気になる!行ってみたい」

• 「看板娘さんの笑顔が最高。昭和の街角にタイムスリップしたみたい」

• 「鍋の湯気まで写っていて、温かさが伝わる。こういう写真に惹かれる」



母は「智美、あんた看板娘だってよ」と笑い、父は「食堂が注目されるなんて面白いもんだな」と頷いた。私は照れくさくて「そんな大げさな…」と返したけれど、心の奥は少し誇らしかった。


夜、佳奈子と美雨と一緒に味噌煮込み鍋を囲んだ。土鍋の蓋を開けると、湯気がふわりと立ち上り、味噌の香りが広がる。麺をすくい上げると、熱さに顔をしかめながらも笑いがこぼれる。


「ネット販売もいいけど、下北堂が人気ってすごいよね」

佳奈子が声を弾ませる。

「智美の笑顔が効いてるんだよ」

美雨が静かに言った。

「やめてよ、恥ずかしい!」

私は笑いながら鍋をかき混ぜた。


「でも、こうして鍋を囲んでる写真が、誰かの心を動かすって不思議だね」

美雨が湯気の向こうで呟いた。

「青春って、こういうことなのかも」

佳奈子が笑いながら頷く。


3人で鍋をつつきながら、笑い声が絶えなかった。ネット販売の成果よりも、下北堂が「青春の舞台」として注目されていることが、何より嬉しかった。


鍋の湯気の向こうに、哲也さんの沈黙の微笑みが浮かぶ。言葉はなくても、確かにこの時間を見守っている。私は箸を止め、心の中でそっと呟いた。

――悪くないね。これも青春だ。


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