ep.8 境界を越えてはならない
家の前まで迫った白い線。
踏み越える寸前、ハルカに止められるが、佐伯の登場で状況は一変。
気づけば、主人公は見知らぬ教室に立っていた――。
夜。
窓の外で揺らめく白い線は、もう家の敷地の入り口に達していた。
まるで蛇のようにゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
スマホにはまた通知が届く。
《越えたら、戻れない》
胸がざわつく。
俺は思わず玄関へ向かった。
線は、門扉のすぐ向こうにある。
***
足音が背後から近づく。
振り返ると、そこに立っていたのは――ハルカ。
「来ちゃダメ!」
彼女は俺の腕を掴み、信じられない力で引き戻した。
「この線は、向こうとこっちを繋ぐドアみたいなもの。
一度でも跨いだら、あなたは……」
言いかけたところで、背後から声がした。
「……おい、何してんだ?」
佐伯が立っていた。
その顔は笑っているのに、瞳だけが暗い。
「……やっと見つけた」
その瞬間、白い線が勢いよく伸び、俺たちの足元に触れた。
視界が暗転する。
***
目を開けると、そこは見知らぬ教室だった。
窓の外には赤い空が広がり、遠くでチャイムが鳴り響いている。
机の上には、古びた名簿。
1ページ目には、見覚えのない俺の名前が書かれていた。