ep.6 見えない境界線
消えた警告メッセージ。
屋上から見えた、グラウンドの黒い影。
放課後、夕暮れの街角で再びそれを目撃する。
だが、それは影だけの存在ではなかった。
夢の中、少女は白い線を指差し言う。
――「ここから先は、戻れなくなる」。
次の日の朝、スマホの履歴を確認した。
昨夜届いた警告メッセージは、跡形もなく消えていた。
送信元の番号も、履歴からごっそり抜け落ちている。
「……夢、だったのか?」
そう呟いても、胸の奥のざわめきは消えない。
***
昼休み、ハルカは俺を屋上へ呼び出した。
彼女は風に髪を揺らしながら、じっと俺を見つめる。
「昨日のこと、覚えてる?」
「ああ。……旧校舎で、足音と……声」
「じゃあ、その声は何て言ってた?」
「……思い出すな、って」
一瞬、彼女の瞳がわずかに細くなる。
だが、すぐに笑みを作った。
「それなら、まだ間に合うかもしれないね」
「間に合うって、何に……?」
ハルカは答えず、屋上のフェンス越しに校庭を見下ろした。
その視線の先、見慣れたグラウンドに、見慣れない“黒い影”が立っていた。
***
放課後。
俺は一人で帰る途中、影のような存在をまた見つけた。
夕暮れの交差点で、信号待ちをする人混みの中に、まったく動かず立つ黒い輪郭。
目を逸らした瞬間、それは消えていた。
(……見間違いじゃない)
そう確信しかけた時、背後から肩を叩かれる。
振り向くと、そこにいたのはクラスメイトの佐伯だった。
「おーい、聞こえてるか?」
「ああ……悪い、ぼーっとしてた」
佐伯は笑いながら去っていく。
だが、彼の影が地面に映っていなかったことに、その時はまだ気づいていなかった。
***
夜、夢の中で、またあの少女が現れる。
今度は泣きそうな顔でこう言った。
――「ここから先は、戻れなくなるよ」
俺は思わず聞き返す。
「ここって、どこだ?」
少女は答えない。
ただ、俺の足元に引かれた一本の白い線を指差していた。