ep.5 二年前の記録
旧校舎の資料室で見つけた二年前の文化祭写真。
そこには、転校してきたばかりのはずのハルカが写っていた。
「君は覚えてないだけ」――そう告げた直後、俺だけに聞こえる足音と声が迫る。
そして、ポケットのスマホに届いた一通の警告。
《それ以上は危ない》。
翌週の月曜日。
放課後、俺はハルカに呼び出された。
場所は旧校舎――すでに使われなくなった、薄暗い廊下の奥だ。
「……ここ、入って大丈夫なのか?」
「鍵は開いてたよ。たぶん、誰も見てないから平気」
そういう問題じゃない気がするが、ハルカは気にした様子もなく先へ進む。
***
旧校舎の空気は、湿った紙の匂いがした。
窓ガラスは曇り、床板はわずかに軋む。
俺は何度も周囲を見回しながら、彼女の後ろをついていった。
「ここなら、残ってるかもしれない」
辿り着いたのは、小さな資料室だった。
錆びたスチール棚に、ホコリをかぶった箱がいくつも並んでいる。
ハルカはその一つを開け、中から古びた冊子を取り出した。
「……あった」
声が少し震えていた。
俺は覗き込む。
そこには、二年前の文化祭の写真と記事が載っていた。
笑顔で並ぶ生徒たちの中に――ハルカによく似た少女が写っている。
「……これ、お前……?」
「そうだよ」
「でも、お前……転校してきたばかりじゃ――」
「だから言ったでしょ。君は覚えてないだけだって」
彼女は冊子を抱きしめるように持ち、視線を落とした。
***
その時、廊下の奥から音がした。
足音。
誰かが、ゆっくりと近づいてくる。
「……誰か来た?」
俺が小声で言うと、ハルカは首を振った。
「この足音、君にしか聞こえないはず」
「は……?」
言い終える前に、視界が揺らいだ。
まるで旧校舎全体が一瞬で暗闇に飲み込まれたように。
そして、闇の中で声が響く。
――ユウト、思い出すな。
***
気づくと、俺は旧校舎の外に立っていた。
手には、何も持っていない。
ハルカも隣にいなかった。
ポケットの中でスマホが震える。
画面には、一件の未登録番号からのメッセージ。
《それ以上は危ない》