表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転校生は俺だけを覚えていた。  作者: RISE
揺らぐ日常
4/12

ep.4 届かない声

放課後、ハルカに誘われて訪れた図書室。

彼女が探していたのは――二年前の、この学校の記録。

ページをめくる静かな空間に、俺の名前を呼ぶ声が響く。

聞こえたのは、俺だけだった。


そして、その夜。

夢の中で少女が告げた。

――「来ないで、ここに」。


金曜日の放課後。

教室では来週の小テストの話でざわついていた。

俺はカバンを肩に掛けて帰ろうとしたところで、廊下から声をかけられる。

「結城くん、ちょっといい?」


振り向くと、ハルカだった。

彼女は珍しく少し息を切らしている。


「図書室、行かない?」

「……図書室?」

「うん。探したい本があって……でも、一人じゃ見つけられないかも」


それだけ言うと、ハルカはすたすたと先に歩いていった。


 


***


 


図書室は放課後の静けさに包まれていた。

カーテン越しの夕日が本棚を赤く染めている。


「何探してるんだ?」


「……記録。二年前、この学校であった出来事の」


「二年前?」


思わず声が大きくなり、司書の先生に睨まれる。

小声に切り替えて、問い直す。


「それって、俺と何か関係あるのか?」


「あるよ。でも、図書室には残ってないかもしれない」


彼女は古い新聞やアルバムをぱらぱらとめくりながら、真剣な表情を崩さなかった。

その横顔を見ていると、また胸がざわつく。


――その時だった。


廊下から、誰かが俺の名前を呼ぶ声がした。

低く、掠れた、聞き覚えのない声。


(……誰だ?)


振り向くが、そこには誰もいない。

けれど、耳の奥に声が残っている。


――ユウト、逃げて。


瞬間、心臓が跳ねた。


「どうしたの?」

「いや……今、誰かが……」


「何も聞こえなかったよ?」


ハルカは首を傾げる。

その瞳の奥に、一瞬だけ影が差した気がした。


 


***


 


その夜。

夢の中で、またあの少女が現れた。

今度は泣いていなかった。

真剣な目で、何かを言っている。


――「来ないで、ここに」


手を伸ばそうとした瞬間、目が覚めた。

胸の奥に、言いようのない不安だけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ