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転校生は俺だけを覚えていた。  作者: RISE
揺らぐ日常
3/12

ep.3 思い出せない約束

夢の中で泣いていた少女――その姿は、どこか一ノ瀬ハルカに似ていた。

昼休み、中庭で一緒に過ごす中で、彼女はぽつりと口にする。

「あの頃の君は、今と同じ笑顔だった」


それが何を意味するのかは、分からない。

ただ、夢の中の声が確かに呼んだ。

――「約束だよ、ユウトくん」と。


「……また、夢だ」

目を覚ました瞬間、心臓が早鐘を打っていた。

夢の中で泣いていたのは、確かに少女だった。

でも、その顔も、名前も、声すらも、霞がかかったように思い出せない。


ただ――その時の自分が、どうしようもなく胸を締め付けられていたことだけは分かる。


 


***


 


昼休み。

食堂へ向かう途中、廊下の窓から中庭が見えた。

そこに、一ノ瀬ハルカがいた。


ベンチに腰掛け、紙パックのジュースを飲みながら、空を見上げている。

周囲には誰もいない。

まるで、世界から切り離されたみたいに。


(……なんで、誰も話しかけないんだ?)


昨日も今日も、彼女の周囲には人影がなかった。

クラスの中でも、まるで存在を意識されていないように見える。


足が勝手にそちらへ向かっていた。


「一人で食べてるのか?」


声をかけると、ハルカは少し驚いた顔をして、すぐに微笑んだ。


「うん。……でも、来てくれて嬉しいよ」


その笑顔は柔らかくて、どこか懐かしい気がした。

理由なんてない。ただ、胸の奥がざわめいた。


 


***


 


「なあ、昨日の……“始まり”ってどういう意味なんだ?」


昼食を食べ終えた後、俺は切り出した。

ハルカは少し間を置いて、視線を伏せる。


「それを話したら、君は――多分、今と同じじゃいられなくなる」


「同じじゃいられないって……」


「今はまだ、普通でいてほしい。君の笑顔は、あの頃と同じでいてほしいから」


「あの頃?」


その瞬間、脳裏にフラッシュのような映像がよぎった。

夕焼け、風、泣きそうな笑顔。

でも、またすぐに霧に包まれて消えてしまう。


「……俺たち、前にも会ってたのか?」


問いかけると、ハルカはほんの一瞬、何かを言いかけて――やめた。


「ごめん。いつか話す。その時まで……信じてくれる?」


俺は返事をしなかった。

ただ、彼女の瞳から目を逸らせなかった。


 


***


 


その夜、再び夢を見た。

泣いていた少女は、確かに何かを言っていた。

唇がかすかに動き、言葉を紡ぐ。


――「約束だよ、ユウトくん」


目が覚めた時、胸が苦しくてたまらなかった。


でも、その“約束”が何だったのかは、やっぱり思い出せなかった。


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