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転校生は俺だけを覚えていた。  作者: RISE
揺らぐ日常
2/12

ep.2 覚えているのは、君だけだった。

転校生・一ノ瀬ハルカは、やはり俺の名前を知っていた。

それだけじゃない。――俺が忘れてしまった“何か”も、彼女だけは覚えているらしい。

「君がすべての始まりだった」

その言葉が、胸の奥をざわつかせる。

けれど、何を思い出そうとしても、霧がかかったように見えない。


彼女が語る“過去”。

そして、俺が見た奇妙な夢――泣いていた、誰かの姿。


「思い出したら、世界が変わる」

それが希望なのか、絶望なのかは、まだ分からない。

次の日の朝。

教室に入ると、昨日と同じように一ノ瀬ハルカは席についていた。

ユウトから二列離れた、廊下側の席。

彼女は窓の外を静かに眺めていて、誰とも話していなかった。

放課後になっても、それは変わらない。

誰かが話しかける様子もない。

まるで、周囲から“存在していない”ような、そんな静けさがあった。


ユウトはその不自然さに、どうしても目を逸らせなかった。


 


***


 


下校途中。

靴を履き替えて昇降口を出ると、正門の近くで彼女の姿があった。


「……待ってたの?」


思わず口にすると、ハルカは振り返り、軽く笑った。


「ううん、たまたま。君が来るの、なんとなく分かっただけ」


「それ、だいぶ怖いよ……」


「でも、当たったでしょ?」


「……まぁ」


ユウトは、隣に並ぶ彼女の歩幅に合わせて歩き出す。

夕方の風が少しだけ冷たくて、会話が自然とゆっくりになった。


「昨日のことだけど――君、本当に俺のことを覚えてるのか?」


「うん。覚えてる。全部じゃないけど、大事なことは」


「でも……俺は、君のことを思い出せない」


「それは、そうなるようにされてるから」


「……誰に?」


ハルカは答えなかった。

その代わり、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。


「君が思い出したら、世界は変わってしまうから」


「……は?」


ユウトは立ち止まる。


「それ、どういう意味?」


「……ごめん。まだ言えない」


「なんで……? そんなに俺は関係あるのか?」


「あるよ。君がすべての始まりだった」


その言葉はまるで、何かの記憶を呼び起こす鍵のように響いた。

けれど、ユウトの頭の中には靄がかかったように、何も映らない。


「でも、私は諦めないよ。君に思い出してもらうまでは」


「……思い出して、どうなるんだ?」


ハルカは少しだけ、悲しそうな目をした。


「君が私を忘れた理由。それが、すべての答えだから」


 


***


 


その夜。

ユウトは夢を見た。


校舎の屋上。

赤く染まった夕焼けの空の下で、誰かが泣いている。


誰かの名前を、何度も呼びながら――。


その名前は、まるで喉まで出かかっていた。


でも、どうしても思い出せなかった。

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