魔王を倒した時、本当は何があったのか?
「魔王を倒したのは、本当に父だったのですか?」
と、勇者の息子は深刻な顔で問いかけた。
「父の英雄談に疑問をもったのは、魔王討伐の時の写真が少なすぎることに気がついたからです」
魔式写実絵制作真鍮装置。
一般には写真と呼ばれ、カメランと通称の水晶を押すと、カシャと音を立てて、対象の風景や人物の精密な一枚絵が瞬時に作られる。
「国王夫婦になってからの父と母の写真は、あれだけ大量に残っているのに、それ以前の勇者と聖女だったときの写真は二枚だけ。おかしいですよね。そのうち一枚は、父が魔王を倒した最後の一撃。後ろ姿で顔は見えない。その写真では、勇者は左手で剣を持ち、魔王にとどめをさしている。父は右利きだ。あの写真の後ろ姿の勇者は、父とは別人ではないのですか?」
「あなたのお父様は、それまでの魔王軍との戦いで右手を負傷していました。そのため、慣れない左手で剣を持つしかなかったのです。私が二十年前に書いたこの勇者様の伝記にも、そう書かれてますよ」
「そう、その本にはそう記述されてます。でも、僕が子供の頃に読んだ時には、そんな文章はなかったはずだ」
「記憶違いでしょう」
「差し替えられているんじゃないですか?つじつまの合わない部分が判明したら、そのたびにあなたが修正を加えて、新しい本にすり替えられている」
「この伝記本は国中にあるのですよ」
「それをやっているのが黒ずくめの集団なのではないですか。過去に建てられた勇者の像を破壊しまくって、無くしてしまったと言われている集団」
「そんな都市伝説のいるはずのない集団を口に出すなんて、王子のすることではありませんよ」
「もし父が勇者ではないとしたら、もう一つの写真の違和感も説明できる。父たちが魔王を倒したのは十代のときだ。でも、写真の父と母は二十代にみえる。それに、勇者と聖女のいかにもの服装をしているけど汚れひとつない。あの写真は、魔王が討伐された何年も後で、父と母が勇者一行であるとの証明写真としてわざわざそれっぽい服を着て撮影されたものなんじゃないですか?」
「・・・」
「父と母は、本当の勇者の功績を奪い取ったのではないですか?偽りの功績で、この国の国王夫婦になった。もしかして、本物の勇者は父に・・・」
王子は最後まで喋ることができず、意識を失った。
睡眠薬入りのお茶を飲んでしまったからだ。
「王子、魔法でちょっとだけ記憶を消させていただきます。私も黒ずくめの集団の一員なんですよ」
それは、昔の話。
魔王が討伐される前日。
「セクシーダイナマイト」
聖女、のちに国王夫人になる女性は、きわどい水着姿でポーズをとる。
「さあ、私の美しい姿を写真に残して」
同行している記録係が写真を撮りまくる。
「明日の魔王戦もその恰好なんですか?」
「明日はバニーガールよ」
「聖女ぽい清純な衣装もした方がいいですよ」
「いいじゃん。ちゃんと怪我人を治療しているんだから。セクシーコスプレしながら治癒魔法を使ってもいいじゃん」
「私はちょっと年上だから忠告しますけど、十年後ぐらいで後悔するんですよ」
そこに、必要もない眼帯をつけた勇者がやってくる。
「ふふふ。この右目に封印された邪眼の調子がいいぞ」
「勇者様。その人気の小説に影響うけまくった姿、明日は外した方がいいですよ。魔王に勝って銅像が建てられたら、その眼帯姿で銅像になりますよ」
「ふふふ。後悔などするはずないわ」
「十年後ぐらいに後悔するんですよ」
「おおっ。新たに右手に封印した邪神がうずく。これでは剣が持てない。ふふ。しかたがない。魔王には左手ひとつで挑むしかないな」
おわり